人工知能はもうSFの世界だけに存在するものではなくなりました。現実社会にも次々と応用され、知らず知らずに人工知能に触れていることも増えてきています。本記事では人工知能に関連する新規事業を紹介します。
人工知能が注目される理由
人工知能は数十年前から研究されてきた領域です。しかし、本格的な実用化が進んできたのは、最近わずか数年のことです。これほどまでに急激に人工知能が注目されるようになってきたのは何故でしょうか?理由は「情報爆発の時代」に特有のニーズと「人工知能技術の進化」の2点が考えられます。
情報爆発の時代
「情報化社会」という言葉は使い古された感がありますが、あらゆる情報がデジタルデータとして扱われるようになってきたことは事実です。2014年における世界の情報量は1986年の約150倍と言われており、今後は毎年40%ずつ増加していくとの予測があります。
このような劇的な情報量の増加の背景には、スマートフォンの普及やFacebookなどのソーシャルメディアの発達が関連しています。ソーシャルメディアや各種Webサイトでは利用者のあらゆる行動が履歴に残っており、関連する広告を表示するなどの分析用途に用いられています。
また、センサー技術の普及も情報量の増加に大きく寄与しています。例えば、工場などでは部品ごとにセンサーが取り付けられ、その状態を自動的に監視できるようになされています。監視カメラや赤外線センサーなどが防犯や軍事目的で設置されるようになり、大量のデータが記録されるようになってきました。
情報爆発の時代の特徴として、人間の処理能力を超えるほどの情報が集まっている点が挙げられます。数億人のソーシャルメディア上の行動履歴を手作業で分析することは不可能です。大量のデータを分析するには、コンピュータの力が必要になっています。
大量、かつ玉石混淆のデータの中から意味のある情報を抽出するために求められるようになったのが人工知能なのです。
人工知能技術の進化
情報爆発時代の要請に応えられるのは、人工知能技術の進化があったからです。特に、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる技術は、大きな飛躍をもたらしました。
従来の人工知能では、研究者がデータの構造と解析方法を細かく指定していたため、人工知能の分析結果が研究者の技能に依存する側面がありました。ディープラーニングを用いると、人工知能は大量のデータがどのような構造をしているのかを自動的に検出できるようになります。つまり、人間の手を借りずに、人工知能自身がデータの中から意味を抽出できるようになったとも言えるでしょう。
その他にも、大量のデータを保存するためのハードディスクが安価になったことや、処理速度を速めるための並列計算技術が確立されたことなども、人工知能技術の進歩に一役買っています。
人工知能を使ったビジネス事例
1.IBM Watson
http://www.ibm.com/smarterplanet/jp/ja/ibmwatson/
IBMは長年人工知能の研究に取り組んでおり、1997年にチェスで世界チャンピオンを破る等の実績を挙げています。Watsonは人間の自然な言葉を理解できるのが特徴で、人間の質問に対し、大量のデータの中から最適な回答を得ることを目的としています。
具体的には、投資先の選定アドバイスや医師の診断支援などへの応用が期待されています。実際に、2011年にはアメリカのクイズ番組に出場し、チャンピオンに勝ってしまいました。さらに、日本では三井住友銀行がコールセンター業務へと導入する計画になっています。
2.Facebook
https://ja-jp.facebook.com/
Facebookは人工知能の活用に力を入れている会社の一つです。Facebookでは雑多な情報がユーザーの画面に現れてしまうため、ユーザーの興味に合致した最適な情報を自動的に取捨選択することを狙いとしています。
2015年には動画や文章の内容・文脈を認識する人工知能プログラムの発表が行われました。アイススケートとアイスホッケーのように似通った見栄えの動画であっても、この人工知能プログラムは正しく判別することができます。あるユーザーがアイスホッケーが好きだと分かっている場合、アイスホッケーの動画を自動的に判別できれば、その興味に合わせた動画を優先的に表示することができるのです。
3.Google Deepmind
http://deepmind.com/
Deepmind社は2013年にGoogleに買収された人工知能技術の会社です。Deepmindが開発したdeep Q-Networkはコンピュータゲームを自力で学習し上達することができます。ブロック崩しなどの簡単なアーケードゲームでは、人間よりも好成績を挙げるケースもありました。
他の人工知能と異なる点として、人間の短期記憶に相当する働きを持ち、獲得した情報を未知の作業に利用するところが挙げられます。この記憶機能により、約4時間でゲームを習得するなど、高速で効果的な学習を行うことができるようになります。
Googleは人工知能技術に関して、広告表示の最適化にとどまらず、現在研究中の自動運転技術へと応用すると見られています。ゲームのルールと攻略方法を自習したように、人工知能が運行ルールと安全な走行方法を見出すことを目指しているのでしょう。
4.プリファード・ネットワークス(PFN)
https://www.preferred-networks.jp/
PFNは人工知能分野を代表する日本のベンチャー企業です。自動車分野ではトヨタとの提携を行い、また、パナソニックとは自動運転の共同開発を行っています。
2015年5月にはファナックとの提携を発表し、産業用ロボットに対する人工知能技術の活用を目指しています。複数のロボットが協力して生産性を高めるように動いたり、故障が発生した場合に最適な生産計画に移行するよう自動的に動いたりすることが期待されています。
Webやアプリだけではなく、モノづくりの現場にも人工知能技術の応用が進みつつあります。
まとめ
人工知能は情報爆発の時代の要請に応えるために、その技術を進化させてきました。Facebookのような生活に密着した場面でも人工知能の活用は始まっており、産業界にもその波は広がっています。
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