そもそもタレントマネジメントシステムとは?導入の目的は?
タレントマネジメントシステムとは、社員の能力やスキル、経験をデータ化し、一括に集約するシステムです。集められたデータは、人事戦略などに活用されます。これにより、組織にとって最適な人材配置や人材育成を実現できるようになるのです。この手法をタレントマネジメントと呼びます。
組織内で人材を評価する上で、主観を排除することは難しいでしょう。人間関係や上司からの印象などが影響しますし、時に根拠の乏しい曖昧な評価を下されることもあります。能力や経験以外の要素が、人材評価を大きく左右してしまうのです。
社員の能力を客観的に評価できれば、一人ひとりに合ったポジションに配置することができます。優秀な社員が能力を最大限に発揮することで、結果として組織の利益につながるのです。
また社員それぞれの現時点での適性や能力を正しく把握することができれば、今後どのように育成していくべきかという方針が立てられます。
外部研修やeラーニング、コーチングなど、具体的な施策の立案にもつながります。特に幹部候補など組織の舵取りを担う人材を育成する上で、正しい人材育成戦略は欠かせません。
これらの判断の要となるのがデータ分析です。タレントマネジメントは、データを活用した新たな人事戦略として大きな注目を集めている手法なのです。
タレントマネジメントシステムが普及している理由とは?普及率はどれくらい?
タレントマネジメントシステムという言葉は以前はあまり聞く機会がなかったと思います。なぜ近年になって普及し始めたのでしょうか。また実際にどれくらい普及しているのでしょうか。
日本でも広まってきているタレントマネジメント
タレントマネジメントの手法は、1990年代のアメリカで誕生しました。アメリカでは当時から人材の流動性が高かったため、企業は優秀な社員を自社に定着させる必要がありました。そこで人材の能力を客観的に評価するために、タレントマネジメントを用いていたのです。
日本は終身雇用・年功序列という仕組みが一般的だったこともあり、あまり浸透してきませんでした。能力よりも、勤続年数や年齢によって人材配置などが決定されていたのです。
しかし近年、日本の終身雇用・年功序列は徐々に崩壊へと向かっています。実力主義へと移りつつある時代において、新たな人材評価の軸として、日本でもタレントマネジメントが注目されるようになってきているのです。
労働人口の減少
日本は少子高齢化に伴い、今後あらゆる業界で労働力が不足することは必至です。「このポジションに人材が必要だ」となったタイミングで、必ずしも優秀な人材を即座に確保できるとは限らないのです。
「現在自社内にあるヒューマンリソースをいかにうまく活用していくか」という視点が、組織作りにおいて重要になっています。こうした背景からも、データ活用による人材管理システムが注目されているのです。
タレントマネジメントの普及率は10〜20%
HR総研の調査によると、タレントマネジメントの導入企業は13%、検討中の企業も同数の13%という結果になっています。企業規模が大きくなるにつれ、導入している・導入を検討している企業の割合は増えているようです。
また社員数300名以上1,000名以下の中小企業の導入率は21%、前年比の7%上昇という結果になっており、タレントマネジメントが徐々に浸透しつつあることがわかります。
タレントマネジメントシステムの機能・できることとは?
タレントマネジメントシステムを使ってどのようなことが実現するのか、機能やできることを解説します。
人材の情報を管理する
タレントマネジメントシステムは、社員の情報や人事評価のデータ、これまで経験した業務や資格の有無などを一箇所に集約します。ツールによっては、コミュニケーション能力など定性的な部分を数値化できるものもあります。
異動や退職などの情報も蓄積されていくので、年度ごとの離職数などを分析すれば、離職の要因を推定することも可能になるでしょう。
優秀な人材の把握
個々の社員の能力を正確に数値化できれば、優秀な人材の把握につながります。管理職などのポジションに人材を配置する際の判断要素となるでしょう。実力主義の組織を実現できるのです。
何を基準に優秀と判断するかは組織によって異なりますが、ツールによっては優秀な社員の特性を分析する機能を備えているものもあります。これまで主観や印象によって左右されていた評価も、公平に行うことができるようになるでしょう。
タレントマネジメントシステムのメリット・デメリットをまとめました!
タレントマネジメントシステムの導入を検討されている方は、メリット・デメリットを正しく把握しておきましょう。
メリット
タレントマネジメントシステムの導入のメリットは主に3つあります。
個々の能力を最大限に発揮
タレントマネジメントシステムの活用により、個々の能力を発揮できるようになることは大きなメリットです。さまざまな角度から総合的な評価が行われるので「その人がもっとも活躍できる場所はどこか」「向いてる仕事は何か」が分かるようになります。
ある部署でうまく能力を発揮できない社員でも、部署異動や職種変えをきっかけに、埋もれていた力を発揮することはよくあります。組織全体の底上げにもなり、業績アップにつながるでしょう。
前述の通り、タレントマネジメントは、時代の変化とともに広まってきた手法です。人口減少などの社会的背景からも、今後ますます重要になっていくことは明らかです。自社の人材を育て、パフォーマンスを最大化することは、企業の成長には欠かせないでしょう。
業務効率化
人事業務は、採用や研修、人事評価はもちろん、給与計算や勤怠管理など非常に広い領域をカバーしなければなりません。どれも臨機応変に、かつ迅速に対応していかなければならないものです。事務作業も多く、負担が大きいポジションと言えるでしょう。
タレントマネジメントシステムの導入により、あらゆるデータを一箇所に集められるため、業務の効率化も期待できます。データがあちこちに散らばることもなくなります。単調な作業を簡略化できれば、より本質的な人事戦略の策定やマネジメントなどに労力を割くことができるでしょう。
社員のモチベーションアップ
ここまでは基本的に組織運営の視点で見てきましたが、タレントマネジメントシステムの導入は社員側から見ても大きなメリットがあります。データによる客観的な能力の評価が行われると、自分の出した結果が正しく認められるようになり、社員のモチベーションアップにつながるのです。
デメリット
タレントマネジメントシステムの導入はメリットばかりではありません。以下のようなデメリットも存在します。
コストがかかる
タレントマネジメントシステムは、導入にコストがかかります。相応の効果があれば良いのですが、システムをうまく使いこなせずに費用を無駄にしてしまう恐れもあるでしょう。データを集めたはいいものの、それらを活用しきれないというケースも考えられます。
データが正しく集まらない
タレントマネジメントシステムは、社員一人ひとりについての正確なデータが集まっていることが前提となります。
タレントマネジメントについての理解が広まっていない組織の場合、全員がその手法の意図を理解できないまま運用がスタートしてしまい、結果として正確なデータが集まらないということも十分にあり得ます。
タレントマネジメントシステム導入の際は、目的や必要性、メリットを理解してもらうプロセスが欠かせません。
既存のルールとの衝突
タレントマネジメントシステムは、人事評価の仕組みを大きく変える可能性を秘めています。そのため、周囲の十分な理解が得られないまま導入してしまうと、既存のルールや制度との衝突により、社内の混乱を招く可能性もあるのです。
あらかじめ既存の仕組みを見直して、導入前に議論を交わしておく必要があります。
タレントマネジメントシステムにはどんな種類がある?
タレントマネジメントシステムには「オンプレミス型」「クラウド型」の二種類が存在します。
オンプレミス型
オンプレミス型とは、自社で用意したサーバーにソフトウェアをインストールして利用する形態です。強固なセキュリティを実現することができますが、サーバーの用意などに多額の初期費用がかかるため、オンプレミス型を利用する企業の割合は減少傾向にあります。
クラウド型
近年シェアを広げているのが、インターネット上でシステム提供企業のサーバーを経由し、ソフトウェアを利用するクラウド型システムです。自社サーバーを用意する必要はなく、ブラウザから簡単に操作できます。
クラウド型は、月額利用料という形をとっているサービスが多く、機能や利用規模によってプランを変更できます。自社にあったプランを選択することで、コストを抑えて利用できるでしょう。
タレントマネジメントシステムの選び方を解説!
タレントマネジメントシステムは以下の基準で選択すると、失敗しづらいでしょう。
料金
システムを導入する際に最も気になるのは料金です。システム導入の目的から逆算して、費用対効果が高いものを選びましょう。おすすめはクラウド型のシステムです。機能に応じてプランを選択できますし、一定期間お試しで利用できるサービスも存在します。
特にベンチャー企業・中小企業などがいきなり大掛かりなツールを導入するのはハイリスクなので、まずは手軽なサービスから使ってみましょう。
企業規模
企業規模によっても、最適なシステムは異なります。大規模な社員データの分析を強みとしたサービスや、反対に少人数の利用が前提となっているものまでさまざまです。システム自体がどれくらいの規模の企業を対象としているのかをあらかじめ確認しておきましょう。
操作のしやすさ
タレントマネジメントシステムは、操作性もそれぞれ異なります。自社の社員が、システムを操作できるかどうかも選択基準のひとつです。
タレントマネジメントは経営層などにも正しく理解してもらう必要があるため、特にIT業界とかけ離れた業界・業種の場合や、ツールの運用に慣れていない人が多い企業の場合は、機能が制限されたシンプルなもの、サポート体制が整っているサービスの利用をおすすめします。
タレントマネジメントシステムを導入する際の注意点とは?失敗した導入事例もご紹介!
タレントマネジメントシステムの重要性を、社員全員の共通認識にすることを意識してください。よくある失敗例として、「タレントマネジメントを企業の中心人物が理解していないままシステムを導入した」というケースがあります。
タレントマネジメントを一部の部署だけで勝手に実施することは不可能です。人事部内だけで完結するものでもありません。会社内のルールや文化をも左右する大掛かりなものなのです。そのため、経営陣や管理職の理解が必須となります。
企業の中核を担う人たちがその重要性を理解できていないと、タレントマネジメントをうまく運用していくことは難しいでしょう。これらの人々の理解を後回しにしてしまっては、導入コストが無駄になってしまうこともあります。
タレントマネジメントシステムの導入には、まず手法についての共通認識を広めること、企業活動に携わる全ての人々に理解してもらうことが必要となるのです。
タレントマネジメントシステムを導入・上手に活用するための手順を解説!
タレントマネジメントシステムの導入から活用までの流れを紹介します。
まずは導入の体制を整える
タレントマネジメントシステムをいきなり導入するのは、失敗の原因になりえます。タレントマネジメントは、組織の垣根を超えた施策です。社内全体の意識改革やルール整備が必要になります。
まずはタレントマネジメントシステム導入の合意を取る、人事部の役割をはっきりとさせ戦略の方向性を決めるなど、体制整備から始めましょう。
タレントの定義を明確にする
戦略の方向性がある程度決定すれば、次にタレント(能力)の定義を明確にします。企業が評価する能力は、文化や方向性、目指すものによって変わってきます。
どんな人材を育成し、どのポジションに配置するのか、可能な限り具体的に決めましょう。この時点でようやくシステムの導入ができる段階と言えます。
タレントマネジメントシステムを導入する
申し込みの流れとしては、まずシステム提供企業の担当者とのヒアリングを行います。そこでスケジュールや予算をベースとした運用方法や見積もりの提案を受けます。
クラウド型のシステムの場合、申し込みから導入は、即日から数日で完了します。すぐに運用を始めることができるのです。オンプレミス型のシステムやサポートの手厚いサービスでは、運用まで2ヶ月ほどかかる場合もあるようです。
データ収集・分析
次に、社内の人材に関するデータを収集します。タレントの定義がはっきりすれば、どんなデータを集めるべきかがわかるでしょう。データはさまざまな形式で散らばって存在していたり、重複していることもあるので、集めたデータは分析がしやすいように加工・整える必要があります。
データ分析結果をもとにした施策の実行
分析したデータをもとに、人事戦略を実行していくフェーズです。タレントマネジメントは、すぐに効果があるものではありません。
常に効果測定を行い、改善を試みなければ、現場や経営層からの理解も得られにくくなっていくでしょう。施策の中止となってしまう恐れもあります。常に検証・改善のプロセスを回す必要があるということを忘れてはなりません。
タレントマネジメントシステムのおすすめ4選!
おすすめのタレントマネジメントシステムを4つまとめました。
初めてのタレントマネジメントにおすすめ、カオナビ
クラウド型のタレントマネジメントシステム「カオナビ」の大きな特徴は、顔写真が並ぶインターフェイス。社員の顔を一覧表示して、人材配置や戦略を考えることができます。機能は最小限に抑えられており、直感的な操作が可能。初めてタレントマネジメントを行う企業にぴったりです。
初期導入費用は無料、月額費用は39,800円からとなっています。
業務効率化に定評がある、huubHR
「huubHR」は、人事業務におけるあらゆる業務を効率化できるタレントマネジメントシステムです。給与計算や雇保被保険証写真、マイナンバーなど、社員のデータをすべて一括で管理することができます。検索性も優れているので、スムーズな労務管理も可能になるでしょう。
初期導入費用は無料。月額料金も5名までの利用は無料、6名以上の場合一人あたり月額100円となっています。
機能が充実している、SmartCompany
「SmartCompany」の特徴は高機能でカスタマイズも柔軟に行える点です。機能性重視で、本腰を入れてタレントマネジメントの仕組みを導入したいと考えている企業向けです。機能はモジュール単位で切り分けられており、必要なものだけを選択して利用することができます。
導入形態もオンプレミスとクラウドの2種類用意されています。費用はクラウド型、オンプレミス型どちらも見積りが必要となっています。
世界的なシェアを誇る、SAP Success Factors
世界的なシェアを誇るタレントマネジメントシステムです。機能面に優れており、入社後の教育から人材採用まで幅広く活用することができます。サポート体制も充実しています。「タレントマネジメントは初めてだけど、高機能のものを使いたい」と考えている企業向けです。
複数の言語に対応しているので、海外展開を行う(視野に入れている)企業にもおすすめです。初期費用は80万円、一人あたり月額約270円(管理対象人数750名以下の場合)となっています。