ガードナーのマジッククアドラントとは?見方と2019年版から分かることを解説!

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そもそもマジッククアドラントとは

そもそもマジックアドラントとは何か解説していきます。マジックアドラントはアメリカのガードナー社が行っている市場調査です。

具体的には、4つのマス目がある図表に、業界ごとにさまざまな企業を分類していきます。この図表により、自社や競合企業がマーケットにおいてどのようなポジションであるかを、視覚的に表現・把握できるようになります。

マジックアドラントは、メーカーや販売企業の現状分析や、将来的な事業計画を策定する際などに役立てられます。

マジックアドラントでは、あらゆる分野を対象として行われる調査であり、実に150以上の業界が対象になっていると言われています。

企業が自社やライバル会社のポジションを把握することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

最大のメリットは、経営戦略を考える上での材料が増える点にあります。販売会社や製造メーカーが、それぞれの企業の相対的なポジショニングを、俯瞰で把握することができるようになります。

自社の長所や短所、強みと照らし合わせ、ライバル企業にどういった点で勝っていて、どういった部分で劣っているかを正しく理解できるのです。今後の事業戦略を検討する際に役立つでしょう。

それぞれの業界で力を持つ、あるいは注目されているメーカーや販売会社の最新情報を得られる点も、大きなメリットと言えます。

マジッククアドラントを発表するガードナーとは

ガードナーは、アメリカのコネチカット州に本社を置くコンサルティング会社です。IT分野を中心に、さまざまなマーケット調査やコンサルティングを行っています。業界最大手の企業であると言われており、大手IT企業や政府機関を相手に、取引を行っています。

アメリカのフォーチューン誌が年に一度発表する「Fortune500」があります。これは、総収入の高い企業をリストアップしたものですが、この500企業のうち7割以上がガードナーと取引を行っていると言われています。

ガードナーは、マジックアドラント以外にも、さまざまなビジネスを行っています。例えば、IT企業の最高情報責任者を大賞とした会員制のコミュニティ運営やエグゼクティブプログラム、マーケティングなどの専門家が一堂に会するカンファレンスの運営などです。

ただ調査を実施するだけではなく、組織作りや戦略へのアドバイスも行っています。

ガードナーは日本にもある

アメリカに本社を置くガードナーですが、日本にも法人を設立しています。「ガードナージャパン」という名称で、日本国内のインターネット市場の調査などを行っています。結果については、会員限定の情報となりますが、プレリリースとして一部無料で閲覧が可能です。

マジッククアドラントの特徴・見方を解説!

マジックアドラントの見方について解説します。まずは大きな正方形の四角を、縦横で分割します。4つのマスができますが、それぞれに分類名がついており、そこに企業を配置することで、各社の相対的なポジショニングをグラフィカルに表現できるようになります。

右上は「リーダー」、右下「ビジョナリー(概念先行型)」、左下は「ニッチ(特定市場指向型)」、左上は「チャレンジャー」となります。これらは、企業が各業界でどのような存在なのかを端的に表現する言葉です。

また大枠の四角は、縦軸が上に行くほど実行能力の高さが、横軸が右に行くほどビジョンの具体性の高さが強くなります。

リーダー

リーダーは、現時点で市場を引っ張る力を持つ企業が分類されます。古い歴史のある企業や大企業など、信頼を積み重ねた企業が多く見られます。明確なビジョンを持ち、かつそれらを実行に移せており、将来的にも安泰であろうポジションを確立しています。

ビジョナリー

ビジョナリーは概念先行型と訳されます。「先見の明がある」という意味の単語であり、市場がどこに向かうのか、大まかな方向性を見据えている企業が、これに分類されます。

分かりやすくいえば、将来性のあるビジネスを行っている企業であると言えます。市場の流れを大胆に変える可能性を持っていますが、現状はまだ実行に移せていないという点では「実行能力が低い」と判断されます。

ニッチ

ニッチは、特定市場指向型とも言われます。非常に狭いマーケットに照準を絞り、ビジネスを展開している企業がこれに分類されます。よく「ニッチな市場を攻める」という言葉を耳にすることもあるでしょう。

大々的な成果を挙げるわけではありませんが、着実に収益を上げ続けるための経営戦略として有効です。特に、中小企業やベンチャー企業などが、局所的なターゲットに資本を投下するという戦略を取ることがあります。

これはランチェスター戦略と呼ばれ、大企業に資金や経営体力の面で劣勢とされる企業にとっては、効果的な戦略であると言われています。

チャレンジャー

チャレンジャーは、高い能力があり、多くのユーザーを確保できている企業が分類されます。しかしながら、市場の流れを必ずしも掴めているというわけではありません。

ガードナーが発表するハイプサイクルとは

マジックアドラントでは、マーケットの視点から世の中のビジネスの流れを俯瞰できます。では次に、ガードナーがマジックアドラントの他に調査している「ハイプサイクル」について見てみましょう。

ハイプサイクルは、テクノロジー技術の発展度合いを理解するグラフです。最先端と言われるテクノロジーが、実際どれほど発展しているのか、あるいは発展途上であるのか、世の中にどの程度貢献できているのかを理解できます。

ハイプサイクルは、ガードナーのオリジナルの概念であり、もともとはIT技術への投資のタイミングを見極めるための指標として調査されはじめたものです。ハイプは「High Yield Investment Program」の略称で、利回りの高い投資プログラムを意味します。

現在は、IT分野へのマーケットの見極めや、テクノロジーツールの導入の際の判断基準として用いられます。

ガードナーは、テクノロジーの発展には、技術が正しく評価されることが重要であると考えています。正当な評価を受ければ、その分多くの投資を受けることができ、開発や改善を進めていけるからです。ハイプサイクルは、そのための指標として用いられます。

ガードナーは160以上の技術に対して、随時ハイプサイクルを発表しています。

ハイプサイクルの各フェーズを紹介

ハイプサイクルには以下の5つのフェーズにより成り立ちます。

黎明期

新しいテクノロジーが誕生するフェーズです。イノベーショントリガーと呼ばれることもあります。先進的な企業が技術を取り入れ始め、徐々に世の中からの注目を集めるようになり、世間の期待感に伴って、ハイプサイクルは上昇していきます。

期間としては、およそ5〜10年程度と言われています。新しい技術を取り入れたデバイスや、新商品のメディア向け発表イベントなどによって、人々の興味関心を引きつけるタイミングとなります。

流行期

新しいテクノロジーの概念がトレンドとなり、いわゆるバズワードのようにして、世の中に広まるタイミングです。膨らんだ期待のピークとも呼ばれ、時にその技術があればなんでもできるかのような過度な期待をされることもあります。

この時期には、ベンチャー企業やスタートアップなどが、これらの技術を取り入れたサービスを始め、市場を牽引しようと目論みます。しかし、技術自体はまだ汎用化の段階ではないため、うまく世の中に受け入れられないといった課題が散見されます。

幻滅期

新しいテクノロジーに対する過度な期待が徐々に薄れてくるタイミングです。幻滅の谷と呼ばれることもあり、ハイプサイクルは一旦大きく下落します。メディアが話題にする機会も少なくなり、文字通り新しいテクノロジーに「幻滅する」時期になります。

しかしガードナーは、この時期を通ることこそが、重要であると考えています。

「この技術さえあればなんでもできるようになる」といった世間の過剰な期待が落ち着き、ようやく「この技術はどんなことに使えるのか」「一方で、どんなことには使えないのか」が明確になり、「テクノロジーに対する正しい理解が得られる」タイミングとなるからです。

回復期

世の中からの注目が薄まる中で、新たな技術を採用してきた企業は、徐々に他の方法を模索することになります。しかしそんな中でも、一部の企業は、技術の正しい活用方法を理解し、少しずつ収益を拡大しながら、市場を広げていきます。

これが回復期であり、啓蒙の勾配と呼ばれることもあります。テクノロジーが正しく組み込まれたサービスが普及することで、技術が世の中に啓蒙されていくのです。

安定期

技術の正しい活用方法が世の中に浸透し、安定的に供給されるようになります。これが安定期であり、生産性の高まり期とも呼ばれます。ハイプサイクルも乱高下が収まり、安定的なグラフとなります。

ここから新たな課題が生まれることもあり、その際ハイプサイクルは黎明期の段階に戻ります。とはいえこれは技術が後退したわけではありません。再びテクノロジーが世の中に正しく認識されるプロセスがスタートするということです。

ハイプサイクルの正しい見方

ハイプサイクルは、「流行」や「幻滅」といった言葉が使われています。一見、「流行期の技術は優れている」「幻滅期の技術は廃れる」のように思われがちですが、これは正しい理解ではありません。

テクノロジーが世の中に普及するためには、特にこの幻滅期が訪れること自体に意味があるのです。

新たな技術が誕生すると、人々はさまざまな期待を抱きます。社会や日常の課題とされていたものを、すべて解決してくれる、といった考えを提唱する人もいるでしょう。しかし「万能なテクノロジー」というものは存在しません。

必ず「できること」と「できないこと」があり、少しずつ世の中を良くしていくのです。

この「できること」と「できないこと」は、幻滅期に明らかになっていきます。市場に乗り込もうとしたいくつもの企業が、あらゆる失敗をすることで、技術の現実的な部分が見えてきます。

また、幻滅期にテクノロジーの可能性や限界を把握することで、適切な領域に資金を投じることができるようになります。これが事例としていくつも蓄積されることで、追随する企業は着実に新しい技術を活かしたサービスを、開発・提供できるようになってきます。

ブロックチェーンの事例

ブロックチェーンという言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。2016年頃よりメディアでも徐々に取り上げられるようになった新興の技術であり、仮想通貨などの取引の仕組みにも応用されています。

ブロックチェーンとは、さまざまな取引を分散型のネットワークで記録する技術であり、理論上改ざんが不可能であると言われています。これにより、新しい貨幣の流通の仕組みが確立され、世の中の金融の仕組みは大きく変わると期待されました。

個人間であらゆるお金のやり取りが可能になり、国家の管理の範囲を超えた仮想通貨が、世の中に普及していくと考えられていたのです。このため、仮想通貨取引システムなど、さまざまなサービスが新たに誕生しました。

しかし一時はバズワードのようにメディアを飛び交っていた「仮想通貨」や「ブロックチェーン」という言葉は、2019年時点では、当時ほど耳にすることはなくなりました。

実際に、ガートナーが2018年に発表した日本国内のハイプサイクルによると、ブロックチェーンは流行期を過ぎ、幻滅機に突入したという結果が報告されています。

これは、「ブロックチェーンで世の中の金融の仕組みががらりと変わる」といったような過度な期待を受ける時期が、終わりに向かったことを意味しています。

実際に、世の中を見渡しても、仮想通貨は未だ投機目的での流通がほとんどです。ビットコインでの支払いなどはまだまだ普及しているとは言えません。

仮想通貨用の口座を保有しているのも、一部のアーリーアダプターに限られます。このようなトレンドの収束もあって、ブロックチェーンは衰退していくという声も上がっています。しかし、ハイプサイクルを正しく理解できれいれば、そうでないことは理解できるでしょう。

一過性のトレンドが終わったことで、ブロックチェーンはようやく「できること」と「できないこと」を判断するフェーズに入ったと言えます。失敗事例などから、技術の正しい活用範囲が見極められ、徐々にここから実用化に向けた流れが強まっていくと考えられるでしょう。

2019年版マジッククアドラント、そこから分かること

2019年版のマジックアドラントの結果から、分かることについて解説します。マジックアドラントは分野が多岐に渡るため、今回はクラウドコンピューティングの事例を紹介します。

またマジックアドラントは、ハイプサイクルと組み合わせて読み解くと、より世の中のトレンドを見極めることができますので、両者のデータをもとに解説します。

2019年度版の日本版マジックアドラントでは、クラウドコンピューティングの分野において「Google」「Microsoft」「Amazon Web Service」が、リーダーに分類されました。

国内のサービスを見ると、どれもニッチに位置づけられていますが、「NTTコミュニケーションズ」「富士通」が実行力の観点から一歩リードしており、チャレンジャーとリーダーのマス目に接近しています。

クラウドコンピューティングの技術は、2016年に発表されたハイプサイクルにおいて「幻滅期」であると判定されていました。ですがGoogleは、2016年時点で自社サービス「Google GCP」の東京リージョンを設置し、以降3年でおよそ470億ドルもの投資を行ってきました。

その後大阪にもリージョンを設置し、運用をスタートしたことで、システムの利便性を高めてきたのです。

Google GCPは金融やゲームなど、国内のインターネットサービスのクラウドサーバーとして活用されています。

これらのデータから分かることとしては、まず幻滅期となり、世間からの関心が薄れた技術であっても、その後市場を形成するまでに成長するという点です。そして、幻滅期であっても、正しく技術へ投資をして、研究開発を行うことで、市場を牽引する存在になることができると言えるでしょう。

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