今、IT企業を中心に電子契約サービスの導入が進んでいます。
しかし、電子契約サービスのメリットやデメリット、注意点をよく理解されていない方が多いのが現状です。
そのため、今回は『電子契約サービスとは?電子契約サービス・電子契約システムのメリット・デメリット・注意点』という記事のタイトルで、電子契約サービスについて解説します。
電子契約サービスとは? なぜ今、電子契約サービスが流行しているのか?
電子契約サービス・電子契約システムとは?
電子契約システムとは、電子入札後に発注者と契約者がインターネットを通じて契約行為を行うシステムのことを指します。
総務省では「平成17年度総務省重点施策」の中で、電子政府の推進事項の一つに「政府調達手続の電子化」を位置付け「電子契約システム」の基本設計を実施すると明記しています。
すでに、日本の省庁は
- 総務省による非公共事業の物品を対象とした「入札・開札システム」
- 国土交通省による公共事業を対象とした「電子入札システム」
が電子契約システムで行われています。
後ほど、電子契約システムのメリットの項で詳しく説明しますが、電子契約サービスないし、電子契約システムを導入することによって、省力化、効率化、管理強化をすることが出来ます。
より具体的に説明すると、
以下の4つの部分を省力化し、
- 印刷・製本、封入、発送の作業を軽減
- 契約関連文書への押印の手間を削減
- 印紙や切手の管理工数を削減
- 書類の整理や長期保管の工数を削減
また、以下の4つの部分を効率化できます。
- 契約関連書類作成の自動化
- 電子署名の自動化
- サーバを介した書類交付で、取引を迅速化
- 既存システムとの連携で業務を効率化
そして、以下の4つの部分を管理強化できます。
- Webブラウザでいつでも閲覧が可能
- 日付、取引先などで簡単に検索
- 関連文書の一覧表示で、進捗管理が可能
- 電子データなので長期保管と管理が容易
最後に、以下は電子契約システム導入前と電子契約システム導入後を比較した表になります。
電子契約システム導入前 |
電子契約システム導入後 |
紙の契約書には「印紙」が必要 |
電子文書による契約では「印紙」は不要 |
契約書の印刷・製本・送付が必要 | 電子ファイルのまま使用 |
押印のために相手との間で何度かやりとりが必要 | 契約書データをクラウド上で共有するだけ |
契約書はファイルに綴じてキャビネットなどに保管が必要 | 契約書はサーバー内に10年間保管 |
契約書を探すのが大変、古い契約書が見当たらない | 10年保管の契約書をファイル検索で瞬時にピックアップ |
なぜ今、電子契約システム・電子契約サービスが流行しているのか?
現在のように電子契約サービスが広まりつつあるのは、「電子署名法に準拠しない電子契約」の領域に踏み出したことが、きっかけとなっているようです。
そして、その原動力となったのが、弁護士ドットコムが提供する電子契約サービス「クラウドサイン」といえます。
既存の電子契約サービスでは、契約者の双方において、電子証明書の取得を必要とするものがほとんどです。
しかし、クラウドサインでは、電子証明書の取得なしでも電子契約サービスを利用できます(電子証明書の取得なしでも違法ではないそうです)。
さらに、クラウドサインより以前に存在している電子契約サービスを見ると、導入価格を明示していないものもあるなど、利用開始にいたるまでのハードルが高いことを感じさせるものでした。
しかし、クラウドサインであれば、導入費用は0円から始められるので、心理的なハードルはとても低いです。
このように、利用開始のハードル、コストを大きく引き下げたことが、電子契約の利用者を大きく広げる結果につながったと言えるでしょう。
タイムスタンプとは?
最後に、電子契約サービス・電子契約システムのHPによく記載されている用語『タイムスタンプ』について解説します。
タイムスタンプはハッシュ値などを利用する電子署名の一種であり、特に重要な文書を電子化して扱う場合などに用いられます。
電子的な契約書や請求書などを交わす場合、記録日時が請求日や契約日になるため、電子データの日時情報の信頼性が重要となります。
タイムスタンプを用いて、第三者機関により電子データに対して正確な日時情報を付与し、記録時点での電子データの存在証明と非改ざん証明を行います。
電子契約システムの5つのメリット
今回は電子契約システムの5つのメリットを紹介します。
①印紙税の削減
従来の紙の契約文書は課税文書になりますが、契約を電子文書で取り交わす場合は課税対象とならず、印紙税を大幅に削減できます。
業種特性として、契約書の多い下記の業種では印紙税削減効果が多いと言えます。
②事務経費の削減
紙の契約文書では、作成した契約文書を郵送したり、担当者が持参したりなど、手間がどうしてもかかります。
電子契約では、契約書のやりとりはインターネット上で行われるため、これらの手間が省けます。
単に郵送費等の経費だけでなく、電子ファイルをアップロードするだけなので、大幅な時間短縮にもつながります。
③事務作業の効率化
契約書は税法上7年間保管しなければなりません。紙の契約文書ではその保管スペースが必要になります。
また、過去の契約文書を探し出すのにも、倉庫に行ったり段ボール箱を開けたりと非常に時間と労力がかかります。
その点、電子契約では契約書は全て電子ファイルとなるので、実質的な保管スペースは必要ありません。
また契約書を探し出すために、いちいち倉庫に行くこともありません。さらに、契約日付や契約先、契約金額などで検索条件を指定することで簡単に検索、閲覧ができます。
④コンプライアンス強化
電子契約では、契約書の電子ファイルはサーバーに保管します。
サーバーによるバックアップを多重化したり、セキュリティを高めることにより、紛失、劣化、毀損リスクを大幅に低減できるだけでなく、改ざん等のリスクもほぼゼロになります。
また、日付、契約先、金額などの検索属性を利用した検索も簡単になるので、税務調査、会計監査などにも迅速かつ正確に対応できます。
⑤システムのセキュリティを強化できる
物理環境でのセキュリティが難しい契約書保管も、電子データによる保管であればシステムセキュリティを適用できます。
権限設定によってアクセス制限をかければ、関係者以外のアクセスを制御することができます。
さらに、契約書が不正に改ざんされた場合も、ログで追跡できるので、元凶を特定することが可能です。
電子契約システムの3つのデメリット
上記では電子契約システムのメリットを解説しましたが、デメリットがあるのも事実です。
今回は電子契約システムのデメリットを3つ紹介します。
①業務フローの変更を社内説明することへのハードルが高い
電子契約を導入する上で最も大きなハードルになるのが、業務フローが変更することへの社内説明です。
電子契約を導入することは、社内の業務フローを変更するということでもあります。
こうした、従来の契約業務を変更することに、抵抗がある従業員も少なからず存在します。電子契約を最大限活用するためには、社内説明も行った上で、従業員の理解を得ることも大切です。
社内のことだからと説明を疎かにせず、従業員からの理解を得た上で導入しなければ、導入後にメリットを発揮できない可能性があります。
②取引先の理解を得られない場合がある
取引先企業の立場になって考えてみれば、自社にとってのメリットは必ずしも他社のメリットにはなりません。
たとえば、取引先都合によって、自社の契約フローが変更することを想像してみてください。
取引先の要望に対し、急な契約フロー変更は社内の困惑を生みます。加えて、電子契約はサービスオーナー企業(導入企業)だけでなく、そこに関わる取引先も、利用料金を支払う必要があります。
取引先からしてみれば、急に契約フローの変更と利用料金支払いを要求されたも同然です。
③一部の契約は書面で締結しなければならない
実は、契約書などの書面の中にも、電子化が認められていないものがあります。
例えば、以下の契約書では電子化が認められていない書面になります。
- 定期借地契約借地借家法22条
- 定期建物賃貸借契約借地借家法38条1項
- 投資信託契約の約款投資信託及び投資法人に関する法律5条
- 労働条件通知書の交付労働基準法施行規則5条3項
こうした書面を多く扱う企業でも、電子契約を導入するメリットはあります。
基本契約や秘密保持契約、申込書、請求書、雇用契約などほとんどの契約書は電子契約によって管理することが認められています。
しかし、実際に電子化できない契約書も存在するので、電子化できる契約書とできない契約書の比率を事前に確認した上で、導入を検討する必要があります。
電子契約サービス・電子契約システムの13の注意点と遵守しなかればいけない3つの法律
電子契約サービス・電子契約システムは、法律の観点、サービスの疑問点、注意点が多くあると思います。
そのため、まず、電子契約サービス・電子契約システムの13の注意点を紹介します。
電子契約サービス・電子契約システムの13の注意点
①電子署名はなぜ、必要なのか?
電子署名を電子文書に付与することにより、その電子文書が間違いなく電子署名者により作成されたこと、また、作成後に改ざんされていないことを証明できます。
さらに、電子署名法第3条により、電子文書に対する電子署名は、書面に対する押印と同等の証拠力をもつことが定められています。
②署名検証とは何か?
電子署名に添付された電子証明書が有効であることを確認することです。
電子署名が付与された電子文書を受け取った人は、通常ツールを用いて簡単に電子署名に添付された電子証明書の有効性を確認することができます。
③EDI(電子データ交換)で受発注を行う場合、電子署名やタイムスタンプは行われないが、電子契約だとなぜ行われるのか?
EDIでは、あらかじめ限定されたクローズドな参加者が、受発注の取り決めを行い、セキュアな環境の下繰り返し受発注情報を交換します。
参加者が限定され、セキュアな取引環境が構築されているため、通常電子署名・タイムスタンプなどは行われません。
他方、電子契約はオープンな環境のもと様々な参加者が契約行為を行うため、改ざん・成りすましなどを防止するため電子署名・タイムスタンプなどを行い、取引の安全性を確保します。
また、電子署名法に対応することで、契約書の証拠力を高めます。
④電子契約にすると、なぜ印紙税を払わなくていいのか?
印紙税法は、印紙税の対象を「課税文書」と定めています。
電子契約で作成・交付する「電子データ」はこの「課税文書」にあたらないので、印紙税対象外と考えられています。
⑤電子契約に関係する法令は何か?
- 電子署名法
- 電子帳簿保存法
- e-文書法
など、電子文書で書面による文書を代替することを認める様々な法令の整備がすすんでいます。詳しくは後の電子契約サービス・電子契約システムの導入にあたって、遵守しなかればいけない3つの法律の部分で解説します。
⑥原本が電子化されると自由にコピーを作成できると思うのですが、問題ないか?
原本の電子データは、本サービスのサーバ内に安全に保管され、アクセス管理されているため、不用意にコピーされることはありません。
また、コピーされた場合も、電子署名・タイムタンプにより、改ざんすることはできません。
⑦どのような企業で、電子契約の導入が進んでいるのか?
印紙税の削減を目的に、課税文書の多い、建設、ハウスメーカー、IT、流通、不動産など幅広い業界で導入が進んでいます。
また、ペーパレスによる業務効率化・コンプライアンスを強化する目的でも、製造、金融、医療、人材派遣などを中心に採用しているそうです。
⑧電子署名の署名検証を行うと、どのような情報が表示されるのか?
電子署名が有効であること、電子証明書に保管された署名者情報、署名日時、ハッシュ値、署名データなどが表示されます。
ただし、検証ツールによって、表示項目がことなることがあるそうです。
-
⑨電子署名を付与した文書に印影をつけることはできますか?
- 通常電子署名を付与しても、電子文書に印影がつくことはありません。
- しかし、サービスによっては、標準機能でPDF文書を対象に、電子署名時に印影画像を付与することができるそうです。
-
⑩人事異動や組織改編が頻繁に発生する場合、電子証明書や文書のアクセス権などはどのように対応するのか?
- 電子証明書は通常、個人に対し発行されます。
- このため、人事異動により署名担当者が変わった場合、電子証明書の再発行が必要になります。
-
⑪ある検索条件(取引先、日付、金額)で案件や文書を検索することや、その検索結果を一覧表示することは可能か?
- 多くの場合、システム導入時の初期設定で、案件や文書の検索属性を自由に設定できるそうです。
- 取引先、日付、金額を検索属性に設定することにより、案件や文書を検索し、検索結果を一覧表示することができます。
- また、検索結果をCSVファイルに出力することも可能な場合があります。
-
⑫海外からの利用は可能か?
- 日本語・英語のメニューを切り替えて利用できる場合もあるそうです。
- ただし、現時点での準拠法は日本法になるので、海外拠点との間でご利用になる際には、各国の法令とのコンプライアンス確認、輸出手続等が必要になる場合もあるそうです。
電子契約サービス・電子契約システムの導入にあたって、遵守しなかればいけない3つの法律
当然ではありますが、電子契約サービス・電子契約システムの導入にあたって、遵守しなかればいけない法律があります。
今回は代表的な法律を3つ紹介します。
①電子帳簿保存法
電子帳簿保存法とは、従来、文書でのみの保管が義務付けられていた会計書類などを、電子データとして保存することを容認する法律です。
ただし、すべての書面ではなく、一部の書面のみ電子データとして保存できます。定期的に法改正がなされ、徐々に規制緩和がされている法律でもあるそうです。
②e文書法
電子文書法などの条件を満たす書面については電子データとしての保管が認められていたものの、それ以外の書面をスキャンし、電子文書化することは認められていませんでした、
厳密に言えば、原本を廃棄することができなかったのです。しかし、電子文書化のニーズが高まるのを背景に、e文書法が登場しました。
e文書法の要件を満たす場合、電子化した書面契約書、発注書等の証憑書類を含む)の電子保管が認められ、原本の廃棄が可能となったそうです。
③電子署名法
正式名称は「電子署名及び認証業務に関する法律」であり、電子文書での商取引を推進するため、電子文書上の署名も手書きの署名同等の効力を持たせる法律です。
同法第三条において「電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行なわれているときは、真性に成立したものと推定する。」とされています。
まとめ
電子契約システムで解決できる企業課題は多数あります。
そのどれもが、企業にとって重要な課題であり、解決した際の効果は大きいでしょう。
ただし、電子契約システム自体すぐに導入できるものではありません。
導入には何より、取引先からの参加同意が重要です。
今回の記事をきっかけに自社の課題や電子契約システムの導入によって、何を解決できるのかについて考える機会を設けてみてはいかがでしょうか。