この記事はもともと2018年12月に、「全額損金算入できる法人保険の選び方」として書かれたものである。
その選び方の前提は、2019年の法人税基本通達の改正で成り立たなくなっている。
旧本文は、法人保険を「全額損金」「1/2損金」「1/3損金」「1/4損金」という保険種類ごとの区分で説明し、全額損金のものを選んで法人税を減らす、という組み立てだった。
国税庁は令和元年6月28日付の法令解釈通達(課法2-13ほか2課共同)で定期保険と第三分野保険の保険料の取扱いを見直し、令和元年7月8日以後の契約については、保険種類ではなく「最高解約返戻率」で資産計上の割合が決まる形に変えている。
ここでは現行のルールを国税庁のページから整理し、旧本文のどの説明が使えなくなったのかをはっきりさせる。

- 「全額損金/1/2損金/1/3損金/1/4損金」という保険種類別の区分は、令和元年7月8日以後の契約の判断には使えない。現行は最高解約返戻率が50%を超えるかどうか、超える場合はどの区分に入るかで決まる
- 旧本文の「③構造上、資産の計上をすることができない」は、現行ルールでは逆である。保険期間3年以上で最高解約返戻率50%超の契約は、支払保険料の一定割合を資産に計上する
- 年200万円の保険料で節税額600万円・実質返戻率約140%という試算は削除した。保険料の全額がその期の損金になることを前提にした計算で、現行ルールでは成り立たない
- 「最近のトレンドは全額損金算入可能な保険商品の方が非常に多く販売されている」という記述も削除した。この改正は、まさにその種の商品設計を対象にしたものである
- 旧本文に出典は1本も付いていなかった。この記事の数値はすべて国税庁のページで確認したものに差し替えた。
いまは「保険種類」ではなく「最高解約返戻率」で決まる
国税庁は、法人が契約者となり役員または使用人(親族を含む)を被保険者とする保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、
最高解約返戻率が50%を上回る契約では、支払った保険料のうち一定の割合を資産に振り替える扱いになる。
割合も期間も、商品名や保険の種類ではなく最高解約返戻率の区分で決まる。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額 | 取崩し(損金算入)の期間 |
|---|---|---|---|
| 50%以下 | ― | 資産計上は不要。原則として期間の経過に応じて損金に算入する | ― |
| 50%超 70%以下 |
保険期間の開始の日から、保険期間の100分の40相当期間を経過する日まで | 当期分支払保険料の額に100分の40を乗じた金額 | 保険期間の100分の75相当期間の経過後から、保険期間の終了の日まで |
| 70%超 85%以下 |
保険期間の開始の日から、保険期間の100分の40相当期間を経過する日まで | 当期分支払保険料の額に100分の60を乗じた金額 | 保険期間の100分の75相当期間の経過後から、保険期間の終了の日まで |
| 85%超 | 最高解約返戻率となる期間の終了の日まで(最低5年) | 当期分支払保険料の額に最高解約返戻率の100分の70を乗じた金額。当初10年は100分の90 | 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間の経過後から、保険期間の終了の日まで |
出典:国税庁 No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)/国税庁 No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(2026年10月20日閲覧)
返戻率が高い商品を選ぶほど、資産計上する割合が大きくなり、その期に損金として落とせる額は小さくなる。
旧本文は「返戻率のピークが長い」「保険料が高いほど損金に計上される」ことを選ぶ理由として挙げていたが、この関係は逆向きになっている。

資産計上が要らない場合(適用除外)
すべての契約が資産計上の対象になるわけではない。国税庁は次の場合について、相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合の取扱いを示している。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 最高解約返戻率が50%以下 | 資産計上の対象外。支払保険料は原則として期間の経過に応じて損金に算入する |
| 保険期間が3年未満 | 資産計上の対象外 |
| 最高解約返戻率70%以下かつ少額 | 最高解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額が一の被保険者につき合計30万円以下の場合は資産計上の対象外 |
| 解約返戻金相当額のない短期払 | 保険期間を通じて解約返戻金相当額のないものは、令和元年10月8日以後の契約に改正後の取扱いが適用される |
出典:国税庁 No.5364-2/国税庁 法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)/国税庁 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ(2026年10月20日閲覧)
被保険者1人あたり年換算保険料30万円以下という水準は、旧本文が想定していた年200万円規模の契約には届かない。
「保険料をなるべく高く払って損金を大きくする」という使い方は、この除外では受けられない。
「損金が増えれば税金が減る」の部分はいまも正しい
旧本文のうち、法人税の計算の仕組みの説明そのものは変わっていない。
法人税は所得に税率を掛けて計算し、所得は益金から損金を引いて求める。損金が増えれば所得が減り、法人税も減る。
会計上の費用がすべて税務上の損金になるわけではない、という注意点も現行でも正しい。
変わったのは「保険料のうちいくらがその期の損金になるか」の部分だけである。そこが商品ごとに全額だった前提が崩れた。
なお旧本文の試算は「法人の場合、税金が約30%かかる」としていたが、法人税の税率そのものは次のとおりである。
実効税率は法人税のほかに地方税を含めて計算するため、法人税率と同じ数字ではない。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 資本金1億円以下の普通法人 (年800万円以下の所得部分) |
15%。ただし令和7年4月1日以後に開始する事業年度のうち、所得金額が年10億円を超える事業年度については17% |
| 上記の年800万円超の部分、 および上記以外の普通法人 |
23.20%(平成30年4月1日以後に開始する事業年度) |
出典:国税庁 No.5759 法人税の税率(2026年10月20日閲覧)

いまも変わらない注意点
旧本文の指摘のうち、改正に関係なく今も当てはまるものがある。
解約返戻金は受け取った期の益金になる
保険料を支払っている期に損金として落とせても、解約返戻金を受け取る期にはそれが益金になる。
法人保険で起きるのは費用と収益をどの期に立てるかの移動であり、負担の総額が減るわけではない。
資産計上した前払保険料は期間の経過に応じて取り崩して損金に算入するため、解約の時期と退職金などの支出の時期が合わなければ、益金だけが立つ年が生まれる。
出口を決めずに入ると繰り延べにしかならない
解約返戻金を何に充てるのかを先に決めておかないと、受け取った益金を相殺する損金が無く、その期に課税される。
旧本文が「常に出口戦略を考えておかなければいけない」と書いていた点は、改正後はより重くなっている。資産計上の分だけ、支払期に落とせる損金が小さいためである。
解約返戻金の範囲で借りられる制度がある
解約返戻金のある保険では、その一部を保険会社から借り入れる契約者貸付制度を使えることがある。
保険を解約せずに資金を手元に置ける一方、借入額は解約返戻金の範囲に限られ、超えると契約が失効することがある。
利率や上限、手続きにかかる日数は保険会社と商品で異なるため、契約している保険会社の約款で確認することになる。旧本文には「1週間程度で借り入れることが出来る」という記述があったが、出典が無く、保険会社共通の条件としては確認できなかったため削除した。

いま法人保険を選ぶときの順番
経理処理は商品名では決まらない。契約日と、個別の条件で作った設計書の最高解約返戻率で決まる。

この記事の確認について
税務の取扱いと法人税の税率は、国税庁のタックスアンサーと法令解釈通達のページを2026年10月20日に開いて確認した。
旧本文にあった保険会社共通の条件とされていた記述(契約者貸付の所要日数、返戻率のピークまでの年数など)は、出典が無く公的な資料でも確認できなかったため、断定している部分を削除した。
確認できなかったことは推測で埋めていない。
ここで整理したのは一般的な取扱いであって、個々の契約をどう仕訳するかの答えではない。自社の契約については、設計書と契約日を手元に置いたうえで顧問税理士の確認を受けること。

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