そもそもなぜ給与明細は必要なのか?
従業員に給料の支給する際は、支給した給料と天引きした費用の内容を判断可能にするために、給与明細を渡す必要があります。また、給与明細の発行は法律により義務付けられています。
所得税法231条では、「居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。」と定めています。
また、従業員に支払う給料は、額面給与から社会保険料や所得税の源泉徴収分を差し引いて、各種手当が加算されています。よって、従業員が自分の銀行口座に振り込まれている金額が妥当なのかを検証するのにも給与明細は必要です。
Web給与明細配信システムとは?その特徴を解説!
給与明細の発行・受け渡しにあたって業務改善に役立つのがWeb給与明細配信システムです。このシステムはその名のとおりWebを活用して従業員に給与明細を配信するシステムです。
意外と大変な紙の給与明細の発行
通常、給与明細は毎月、給料を支払う前後に全社員分発行して、各社員に渡します。渡し方は各会社によってさまざまですが、この作業には意外と手間がかかってしまいます。
各自の給与明細を作成するところまでは通常の給与明細を活用する場合もWeb給与明細配信システムを活用する場合も同様ですが、通常の給与明細の発行では、それぞれの給与明細を紙に印刷してから封筒に入れて見えないようにして各従業員に渡す必要があります。
紙に印刷する手間がかかるのは言うまでもありませんが各従業員への配布作業も大きな会社になればそれなりの負担になります。
また、紛失した際には再発行しなければなりませんし、誰でも見られる状態になっているので同僚の給料をのぞき見する人が現れてトラブルになるかもしれません。
システムの導入により問題点が克服できる
紙での給与明細の受け渡しを止めて、Web給与配信明細システムを導入すれば上記の問題は克服できます。
システムを使えば、作成した給与明細を、印刷、仕分け、受け渡しなどをせずに直接従業員の元に通知できるため、手間も時間もかかりません。また、配布間違い、印刷間違いといった人的ミスを減らせます。
Web給与明細配信システムのメリットデメリットをまとめました!印刷したい時はどうする?
Web給与明細配信システムを利用することによってどのようなメリットとデメリットがあるのか紹介します。また、紙で欲しいという従業員のために明細を印刷できるのかについても解説します。
システムのメリット
システムを利用すれば、「コスト削減」「人的ミスの低減」「プライバシーの厳格化」の3つのメリットが発生します。各メリットについて詳しく説明します。
コスト削減
まず、システムを導入すればコスト削減につながります。
紙の給与明細を配布する場合は、紙の印刷費用、給与明細を配る費用などが発生します。少ない従業員で一つの社屋にいる場合は大きな負担にはなりませんが、従業員の数が多かったり、事業所が複数に分かれていたりする場合は配布するだけでも負担が重くなります。
例えば、郵送で給与明細を送っていると、それだけで1通当たり82円は出費が発生します。また、経理担当の従業員が配っている場合も、その従業員が給与明細を配るのに必要な時間分の人件費が発生しています。
システムに切り替えるれば、ボタン1つで明細を送れるようになるので、印刷にかかる費用や、従業員に配るためのコストを削減できます。
人的ミスの低減
紙の給与明細を発行する時には人的ミスもつきものです。例えば、すぐに思いつくのが印刷ミスですが、発生しがちなミスは他にもあります。
例えば、給与明細を他人から見えないように封筒に入れる際に、ある従業員用の封筒に違う従業員用の給与明細を入れてしまうかもしれません。
また、郵送する際に何らかの配達トラブルが生じて給与明細が届かないこと、ある従業員の机に違う従業員の給与明細を置いてしまうことも考えられます。
システムを使用すれば上記のような人的ミスは削減可能です。印刷も封筒封入も物理的に受け渡すこともないのでミスが発生しにくいです。
さらに配信エラーがあってもどこでトラブルが発生したのか後で客観的にトラブルを分析可能です。また、紛失などによる再発行の必要もありません。
プライバシーの厳格化
システムにはプライバシーを厳格化する効果もあります。
例えば、郵送で各従業員の家に紙の給与明細を送っていると、何かのトラブルで紛失したり、第三者に見られる可能性があります。また、社内の各自の机やロッカーに置いていると、同僚が見ようと思えば容易に給与明細を見られるでしょう。
上記の通り、紙の給与明細はプライバシーが容易に侵害される可能性があります。
一方でシステムを使えば、基本的にURLやパスワードを知っている人しか明細を閲覧できないのでプライバシーが保護されます。
システムのデメリット
一方でシステムには「導入にコストがかかる」「従業員が対応できない可能性」という2つのデメリットがあります。2つのデメリットについて詳しく解説します。
導入にコストがかかる
まず、システム導入にはコストが発生します。従業員が増えればシステムを使った方が、コストが低くなるかもしれません。しかし、少人数の企業だと、紙ベースで給与明細を渡す方が、コストが安くなるケースもあります。
コスト削減を目的にシステムを導入する場合は、紙ベースのコストとシステムを導入するのにまつわるコストどちらの方が高いのかを検討した方が良いでしょう。
従業員が対応できない可能性
もう1つのデメリットが、従業員がネット上で明細を閲覧することを嫌がる可能性です。
今まで紙でもらっていた給与明細が突然ネット上で配信されるようになると漠然と不安になる従業員がいるかもしれません。また、ネット環境が無い、リテラシーが高くない従業員は対応するのが大変だと感じるでしょう。
よって、反発が発生しそうな場合は、紙からネットへの移行期間を設けて両制度を併存させるなどの工夫が必要です。また、後述するとおり、給与明細の電子化には従業員の同意が必要です。
さらに、システムや企業側のセキュリティに問題がなくても、従業員のちょっとしたミスによって情報漏えいが発生するかもしれません。これはWebを使ったシステム全般にいえますが、ミスからの情報漏えいを防止するために従業員への注意喚起を行っておいた方が良いでしょう。
紙に印刷したい場合は?
大抵のシステムでは、Web上の給与明細をPDFなどにして出力する仕組みがあります。よって、PDFなどにして、それを印刷すれば紙の給与明細として印刷できます。
作業を全員分行うと結局、人事・経理の手間は減りませんし、印刷費などもかかります。ペーパーレスな組織を目指すならプリントアウトしない方が良いですし、コスト削減が目的なら極力従業員に印刷の仕方を通知して、各自でやったもらった方が良いでしょう。
ただし、次の章で説明するとおり、従業員が要求するならば会社側は紙の給与明細を交付する義務があります。
Web給与明細配信システムの場合、源泉徴収、確定申告はどうなる?
システムを使う際に気になるのが、配信された給与明細が、税金が絡む諸手続きで有効なのかです。源泉徴収や確定申告など源泉徴収票・給与明細が必要な手続きに関してのWeb給与明細の扱いについて解説します。
Web給与明細は合法
まず、給与明細のネット上で配信すること自体は平成18年度の税法改正により認められているため合法です。紙の給与明細を作成せずにWebだけで給与明細を送信しても手続き上問題はありません。
ただし、所得税法によればWebで給与明細を配信する際には従業員の承諾が必要で、求めに応じて紙の書面を交付しなければならないと解釈されています。(国税庁Webサイトより)
よって、Web給与明細自体は合法ですが、企業側は必要に応じて紙の書類を配布する準備をしておくことが必要です。
ちなみに、紙の給与明細でもWebの給与明細でも給与計算・支払いにおいて行うべきことは変わりません。給料から所得税の源泉徴収や社会保険料の天引きなどをして各機関に納付することが義務づられています。
確定申告には使えない?
ちなみに、Web給与明細に関してよく言われるのが、Web給与明細を自分で印刷しても確定申告では使用できないということです。
これは国税庁が確定申告で使う源泉徴収票は給与支払者から交付された書類でなければならず、電子交付された源泉徴収票を自分で印刷しても確定申告には使えないという判断を示していたからです。
ただし、e-TAXを使って確定申告する場合はもともと源泉徴収票は必要ありませんし、書面で申告書を提出する場合も平成31年4月1日以降、源泉徴収票等の添付が不要になりました。(国税庁Webサイトより)
よって、確定申告のことはWeb給与明細でも心配する必要はありません。
Web給与明細配信システムの選び方を解説!
Web給与明細配信システムの選択・導入にあたってはいくつかのポイントがあります。システムを選ぶ際に考慮しなければならない5つの事項について解説します。
給与計算など連携できるシステムについて確認する
まず必要なのが他のシステムと連携しているかのチェックです。
給与明細配信システム単体を導入してもあまり業務効率化は望めません。他のシステムと連携させることによって大きな業務効率化が可能となります。
特に重要なのが給与計算システムとの連携です。給与計算システムと給与明細配信システムが連携していなければ、給与計算システムで作成したデータを人力で給与明細配信システムに入力しなければならないので二度手間となります。
既に給与計算システムを導入している場合は、その給与計算システムと連動できるのかを確認した方が良いですし、未導入の場合はセットで給与計算システム導入を考えた方が良いでしょう。
明細配信以外の機能を確認する
給与明細配信システムには給与明細配信以外にも、安否確認、社内報などさまざまな機能が付与されているシステムがあります。
付属の機能で必要なものがあれば一石二鳥でシステムが導入できますし、使わない機能が付加されている高機能・割高になっているシステムを導入する必要はありません。
自社に必要な機能を明確にして、それに合致したシステムを検討してください。
対応可能な明細書の範囲を確認する
ほとんどのシステムは給与明細書、賞与・源泉徴収票など主要な明細書にはほとんど対応しています。しかし、念のために自社が発行する明細書の種類をカバーしているのかを確認しておいた方が良いでしょう。
ちなみにシステムによってはレイアウトにある程度自由度を持たせているシステムもありますので、特殊な形式の明細を発行したい際にはレイアウト機能を持ったシステムを選んでください。
導入・運用に必要な費用を確認する
導入・運用に必要な費用を確認してください。費用は必ずしも安ければ良いというわけではありません。安いシステムはそれだけ機能が少なかったり、利用上の制限があったりと何かと不便なケースが多いです。
自社の求める機能を整理したうえで、要求を満たす最もコストパフォーマンスの高いシステムを選択してください。
無料トライアルが無いかを確認する
カタログなどを見ていても実際に使用するとシステムの印象が変わることもあります。
最終的な使いやすさはやはり使ってもなければわからないので、慎重に選びたい場合は無料トライアルがついたシステムを選んだ方が良いでしょう。
Web給与明細配信システムのおすすめ5選!
おすすめのWeb給与明細配信システムを5つ厳選して紹介します。上で説明した基準を元にした比較表は次のとおりです。
サービス名 | SmartHR | やよいの給与明細 オンライン | マネーフォワード クラウド給与 | Web給金帳 Cloud | Pay-Look |
連携できるシステム | マネーフォワードクラウド給与、人事労務freeeなど | 弥生給与 | マネーフォワード | 弥生給与、奉行10シリーズ、PCA給与Xシリーズなど | 弥生給与、奉行10シリーズ、PCA給与Xシリーズなど |
明細配信以外の機能 | 入退社手続き、雇用契約、各種労務手続きや電子申請など | 賃金台帳・従業員台帳の作成 | 給与計算、社会保険料計算、雇用保険料計算、年末調整など | オフィス文書配付・回収 | 社内連絡機能、安否確認機能 |
対応可能な明細書 | 源泉徴収票、年末調整資料など | 給与・賞与明細書 | 給与・賞与明細・源泉徴収票 | 賞与明細、源泉徴収票など | 給与明細など |
導入・運用に必要な費用 | 月額利用料:従業員1人あたり600円~ | 月額利用料:450円~ | 月額利用料:個人利用1,280円~、法人利用3,980円~ | 月額利用料:従業員1人あたり43円~ | 初期費用:100,000円 月額利用料:5,000円+50円×人数 |
無料トライアル | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
人事・労務業務全般に対応したSmartHR
SmartHRは給与明細配信だけではなく、人事・労務関係全般に対応しているツールです。入退社の記録や社員名簿、年末調整書類、雇用契約書の作成などさまざまな機能が付加されています。
マネーフォワードクラウド給与や人事労務freeeなどクラウド型の給与計算、人事労務ソフトと連携しているので、これらのシステムを導入していて給与明細の配信だけではなく人事・労務関係のペーパーレス化を行いたいなら導入しても良いでしょう。
15日間の無料トライアル期間がありますし、従業員10名以下なら一部機能は制限されますがトライアル期間が終わった後でも無料で使用できます。
会計システム大手の弥生シリーズのやよいの給与明細 オンライン
会計システム大手の弥生のWeb給与明細配信システムです。他のシステムとあまり連動しておらず、付属の機能もほとんどありませんが、弥生給与を使っていて給与明細をオンライン化するだけならば十分でしょう。
初期設定は特に必要なく、操作も簡単、かつ利用料金も安いので、とりあえず安価にシステムを導入したい場合に優れたシステムです。
年末調整は税理士に委託して、経営者が自らエクセルなどで給与計算を行っている従業員30名程度までの事業者に特におすすめのツールです。
クラウド会計大手マネーフォワードのマネーフォワード クラウド給与
クラウド会計システム大手のマネーフォワードが提供しているサービスで、給与計算とWeb給与明細配信が1つのシステムで行えます。
給与計算システムとWeb給与明細配信システムの両方を導入したいという場合におすすめのツールです。ちなみに、クラウド会計システムのマネーフォワードとも連携しているので、両方とも導入すると給与計算、経理、給与明細送信まではシームレスに行えるようになります。
クラウド型システムなので税制や法令の変化に自動対応してくれますし、ネット環境があればどこからでもログイン可能です。
法人の場合の基本料金は月額3,980円からでWeb給与明細配信システム単体でみれば少し高めかもしれませんが、クラウド型の給与計算システムとしてみれば妥当です。
オフィス文書の配布機能もついたWeb給金帳 Cloud
給与明細配信システムにオフィス文書の配布機能がついたシステムです。
たくさんのメジャーな給与計算ソフトと連携可能ですし、PC、スマホ問わずにさまざまなデバイスから明細を閲覧可能です。また費用についても初期費用なし、月額社員1人あたり43円から利用できるのでコストパフォーマンスも良いです。
オフィス文書の配布機能とは、給与明細の他に勤務シフト表や辞令などのオフィス文書も社内に共有できる機能のことを指します。ワード、エクセル、PDF、パワーポイントなどさまざなファイル形式の書類を特定の従業員に対して配布できます。
1700社70万人以上への導入実績があるPay-Look
1700社70万人以上に導入実績がある人気のWeb給与明細配信システムです。
Web給金帳 Cloudと同様にメジャーな給与計算ソフトに対応していて、PC、スマホ問わずにさまざまなデバイスから閲覧可能です。
費用について、上の表だけ見るとWeb給金帳 Cloudの方が安そうに見えますが、Web給金帳 Cloudは従業員数によって一人あたりの値段が変化し、従業員700人以上の会社でないと一人あたりの利用料は50円以下にはなりません。700名未満なら、Pay-Lookの方が割安です。
給与明細の配信だけではなく、社内報を通知したり、安否確認をする機能もあります。