ワークフローシステムの選定でつまずくのは、製品の機能を比べる段階ではありません。各社から返ってきた見積もりが、そもそも同じ前提で作られていないために比べられない、という段階です。人数の数え方が違い、必要なオプションが入っていたり入っていなかったりすると、金額を横に並べても意味を持ちません。
ここでは、5社に見積もりを依頼して同じ土俵に載せるまでの手順を、6つの工程に分けて整理します。製品ごとの金額と条件はワークフローシステム比較にまとめています。
比較が成立しない原因は、前提のそろえ方にある
「ワークフローシステムの見積もりが欲しい」とだけ伝えると、各社は自社の標準的な構成で計算します。ある社は申請者の人数だけで計算し、別の社は承認者を含めた人数で計算する。ある社はモバイル利用を標準に含め、別の社はオプションとして別建てにする。結果として、返ってきた3社の金額は3つの違う前提の上に立っています。
この状態で「A社が最も安い」と判断すると、契約後に必要な機能を足した時点で順位が入れ替わります。前提をそろえる作業は、比較の準備ではなく比較そのものです。
そろえるべき前提は4つです。電子化する申請書の数、課金対象となるID数、必要なオプション、既存の基盤との連携先。この4つが決まれば、各社の見積もりは同じ意味を持つ数字になります。
工程1|電子化する申請書を数え、3つの層に分ける

最初にやるのは、いま社内で回っている申請書を紙に書き出すことです。種類を数え、頻度で3つの層に分けます。
| 層 | 頻度 | 代表的な申請書 | 電子化の優先度 |
|---|---|---|---|
| 第1層 | 毎日〜毎週 | 休暇届、残業申請、立替経費、備品購入依頼 | 最初の1か月で移す |
| 第2層 | 毎月〜四半期 | 購買稟議、押印申請、支払依頼、人事の届出 | 分岐の設計後、2〜3か月目 |
| 第3層 | 年に数回 | 設備投資の稟議、組織変更、規程の改定 | 紙のまま残す判断もある |
この分類には2つの意味があります。ひとつは、必要な様式の数が確定すること。もうひとつは、専用のワークフローシステムが本当に要るのかが判断できることです。
第1層が3種類しかなく、しかもその全部が勤怠と経費に関するものなら、勤怠管理システムや経費精算システムに内蔵された申請機能で足ります。専用システムを別に契約する必要はありません。第2層まで含めて15種類を超え、部門をまたぐ様式があるなら、専用システムの検討に入ります。
第3層を最初から対象に入れないことも、実務上の判断としてはあり得ます。年に2回しか使わない設備投資の稟議を電子化するために、承認の階層が5段ある経路を作り込むと、設定に何日もかかります。効果が出るのは第1層と第2層です。
工程2|ID数を「申請者+承認者+管理者」で確定する

ワークフローシステムの料金は、ほぼすべてがユーザー数またはID数に対して課金されます。ここを間違えると、見積もりの金額そのものがずれます。
数えるべきなのは、システムを触るすべての人です。申請する一般社員だけでなく、承認する管理職、内容を確認する経理、様式と経路を管理する総務や情報システムの担当者も含めます。
従業員50名の会社を例にすると、申請する社員が35名、承認する管理職が9名、経理が3名、総務が2名で、合計49IDになります。申請者だけを数えた35IDとの差は14IDです。年額6,000円の製品なら84,000円、年額4,800円なら67,200円の差になります。
あわせて、次の点も各社に確認してください。製品ごとに扱いが違うため、確認しないと見積もりの前提がそろいません。
- 承認だけを行う人にIDが必要か
- 閲覧のみの人にIDが必要か
- 退職者のアカウントを削除すれば課金対象から外れるか、翌月からか
- 休職者や産休中の従業員をどう扱うか
- 年度の途中でID数を増減できるか
最後の項目は、年額前払いの製品では特に重要です。年度の途中で人数が減っても、支払い済みの金額が戻らない契約形態があります。
工程3|下限の形で候補を絞る
ID数が確定したら、各製品の「下限」に自社を当てはめます。下限には金額・人数・期間の3種類があり、どれに当たるかで有利な製品が変わります。
| 下限の種類 | 例 | 効いてくる規模 |
|---|---|---|
| 金額の下限 | 月額の最低利用料金5,000円 | 16人以下では単価が意味を失う |
| 金額の下限(基本料金) | 契約1件あたり月20,000円 | 人数が少ないほど1人あたりが重い |
| 人数の下限 | 最低5ユーザー/最低25ID | 下限を割ると使わない分まで払う |
| 期間の下限 | 最低2か月/最低1年/12か月単位 | 短期間で見極めたい場合に効く |
| 前提となる契約 | Google Workspace(有料版)が必要 | 未導入なら別サービスの費用が加わる |
10名の会社であれば、人数の下限が25IDの製品は候補から外れる可能性が高くなります。使うのが10名でも25ID分の料金になるためです。逆に50名以上なら、この下限は関係なくなり、単価そのものが総額を決めます。実際の効き方は、金額の下限を置くジョブカンワークフローと、ID数の下限を置くグルージェントフローを並べると分かりやすくなります。
期間の下限は、意思決定の進め方に関わります。全社で一度に導入すると決めているなら1年契約でも問題ありません。1部門で試してから広げたいなら、契約期間が短い製品のほうが動きやすくなります。
この工程で候補を2〜3社まで絞ります。5社すべてに詳細な見積もりを依頼すると、比較する側の工数が先に尽きます。
工程4|既存の基盤と連携先を書き出す
次に、自社がすでに使っているサービスを列挙します。ここで候補がさらに絞られることがあります。
- 認証基盤:Google Workspace、Microsoft 365、Active Directory、シングルサインオンのサービス
- グループウェア:サイボウズ Office、サイボウズ Garoon、desknet’s NEO、kintone
- チャット:Slack、Microsoft Teams、Chatwork、LINE WORKS
- 電子契約:クラウドサイン、GMOサイン、DocuSign
- 会計・経費:承認後にデータを渡す先
- ファイル保管:Google ドライブ、Box、SharePoint
ここで注意したいのは、連携が有料オプションになる製品があることです。同じ「クラウドサイン連携に対応」でも、標準の機能として提供する製品と、月額30,000円(1環境)のオプションとして提供する製品があります。少人数の会社では、このオプション1つで総額の順位が入れ替わります。
連携の要否は「あれば便利」ではなく「なければ転記作業が残る」で判断してください。承認後に誰かが手で別システムへ入力しているなら、その工数を金額に換算して比べます。
工程5|見積もり依頼書に書く8項目
ここまでで決めた内容を、1枚にまとめて各社へ渡します。口頭で伝えると前提がずれるため、文書にするのが確実です。
| 項目 | 書く内容 | これがないと起きること |
|---|---|---|
| 1. ID数 | 申請者・承認者・確認者・管理者の内訳と合計 | 各社が違う人数で計算する |
| 2. 様式の数 | 第1層・第2層それぞれの種類数 | 初期設定の工数が見積もりに入らない |
| 3. 代表的な様式 | 実際の申請書を1枚添付 | 再現できるかが分からないまま契約する |
| 4. 経路の条件 | 金額基準、部署による分岐、合議の有無 | 必要なプランが特定できない |
| 5. 連携先 | 認証・グループウェア・チャット・電子契約・会計 | オプション費用が抜ける |
| 6. 利用端末 | PCのみか、スマートフォンからの承認を含むか | モバイルがオプションの製品で金額がずれる |
| 7. 保存の要件 | 保存すべき期間と、解約時の出力形式 | 契約後にデータを取り出せないと分かる |
| 8. 開始時期 | いつから第1層を運用したいか | 初期設定支援の要否が判断できない |
3番目の「実際の申請書を1枚添付する」が、この依頼書で最も効く項目です。既存様式の再現度は、機能一覧を読んでも分かりません。実物を渡して「これがそのまま載るか」を聞けば、各社の回答は具体的になります。
7番目は見落とされがちですが、契約後に取り返しがつかない項目です。稟議書や契約に関する申請には保存義務がかかるものがあり、解約時にデータを取り出せない形だと、システムを乗り換えられなくなります。出力できる形式(CSV・PDF)と、出力できる期間を先に確認してください。
工程6|トライアルで確かめる順番
見積もりが出そろったら、上位2社でトライアルに入ります。多くの製品が30日間の無料お試しを用意しており、製品によってはお試し環境をそのまま本番環境として引き継げます。
30日という期間は、全社分の様式を作り込むには足りません。次の順番で、判断に必要な最小限だけを試してください。
- 1〜3日目:第1層のうち最も件数の多い申請書を1枚だけ作る。ここで詰まる製品は、20種類の様式を作る段階で確実に破綻します。
- 4〜7日目:その申請書に、実際の承認経路を設定する。金額での分岐が必要なら、この段階で試します。
- 8〜14日目:実際の部署の3人に申請してもらう。管理者ではない人が迷わず出せるかを見ます。
- 15〜21日目:承認者の不在を想定し、代理承認と差し戻しを試す。運用に入ってから最も頻繁に起きる操作です。
- 22〜28日目:データを出力し、必要な項目が含まれるか確認する。連携先へ渡す形式も試します。
- 29〜30日目:社内の判断会議にかける。ここまでの結果を1枚にまとめます。
3番目の「管理者ではない人に触ってもらう」を省略すると、導入後に問い合わせが情報システム部門へ集中します。設定した本人は使えて当然です。判断材料になるのは、初めて見た人が説明なしで申請できるかどうかです。
費用の稟議に載せる内訳
選定が終わったら、稟議に載せる金額を組み立てます。月額の利用料だけを書くと、運用開始後に追加の支出が発生して説明が必要になります。
| 費目 | 確認先 | 備考 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 各社の料金ページ | 0円の製品が多いが、契約前に確認する |
| 月額または年額の利用料 | 確定したID数×単価 | 下限が適用されるかを確認 |
| オプション費用 | 連携・モバイル・容量 | 1ユーザー単位と1環境単位を分けて計上 |
| 初期設定の支援・代行費用 | 個別見積の製品が多い | 自社で設定するなら不要 |
| 社内の作業工数 | 様式の数×作成時間 | 金額に換算して稟議へ載せる |
| 前提となる他社サービス | Google Workspaceなど | 未導入なら別途必要 |
補助金を使えるかどうかも、稟議の前に確認しておく項目です。中小企業向けの制度としては、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「デジタル化・AI導入補助金2026」(中小企業デジタル化・AI導入支援事業、旧IT導入補助金)があります。公式サイトによれば、事前登録受付は2026年1月30日、交付申請受付は2026年3月30日に開始されています。申請枠は通常枠、インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)、セキュリティ対策推進枠、複数者連携デジタル化・AI導入枠に分かれています。

補助を受けるには、IT導入支援事業者が登録したITツールであることが前提になります。公式サイトにはITツール検索の機能が用意されているため、候補にしている製品が登録されているかをここで確認できます。また、交付申請の手続きにはSECURITY ACTION自己宣言IDの登録が必要である旨も案内されています。補助率と補助額の区分はトップページからは読み取れなかったため、各枠の要件は公式サイトの該当ページで確認してください。
設定を担当する人が決まっていない場合
ここまでの手順は、社内に設定を担当する人がいることを前提にしています。実際には「導入は決まったが、誰が様式を作るのかは決まっていない」という状態で走り出す会社が少なくありません。この状態のまま契約すると、月額だけが発生して運用が始まらない期間が生まれます。
担当が決められないときの選択肢は3つです。ひとつは、初期設定の代行を製品側へ依頼すること。多くの製品で個別見積となるため、様式の数を伝えて金額を出してもらいます。ふたつめは、伴走支援や管理者向けの講習が利用料に含まれる製品を選ぶこと。自社の担当者を育てながら進める形になり、時間はかかりますが外部費用は増えません。みっつめは、対象を第1層の3種類だけに絞って開始し、運用しながら担当を決めることです。
どれを採るにしても、決めておくべきは「様式の追加を誰に依頼するか」です。現場から新しい申請書を作りたいと言われたとき、その窓口が決まっていないと、紙の申請書が並行して残ります。製品によっては、カテゴリ単位で編集権限を現場へ渡せるものがあります。情報システム部門を経由せずに部門側で様式を追加できる構成にすると、この問題は起きにくくなります。
選定でよくある3つの失敗
1つ目は、機能一覧の◯×だけで決めることです。どの製品の機能一覧にも「条件分岐」「代理承認」という項目は並びます。差がつくのは、その機能がどこまで細かく設定できるかです。金額での分岐はできても、申請の途中で金額が変わったときに経路を組み直せるかどうかは、機能名からは読み取れません。実物で試してください。
2つ目は、単価だけを見て下限を見落とすことです。1ユーザー300円でも、月額の最低利用料金が5,000円なら、10人での実質は500円です。25IDが下限の製品を10人で使えば、実質単価は表示の2.5倍になります。総額で比べる習慣をつけてください。
3つ目は、様式を全部そのまま移そうとすることです。紙の時代に積み上がった記入欄には、いま誰も見ていない項目が混ざっています。既存様式を再現できる製品を選んだとしても、移すかどうかは別の判断です。第1層の様式を移す段階で、記入欄を1つずつ「これは誰が何に使うか」で確認すると、その後の運用が軽くなります。
まとめ
ワークフローシステムの選定は、製品を比べる前の準備で結果がほぼ決まります。電子化する申請書を数えて3つの層に分け、システムを触る全員でID数を確定し、金額・人数・期間の下限に自社を当てはめて候補を絞る。そのうえで既存の基盤と連携先を書き出し、8項目の見積もり依頼書を作れば、返ってきた金額を横に並べられます。
トライアルでは、最も件数の多い申請書を1枚だけ作り、実際の承認経路を通し、管理者ではない人に触ってもらう。この3つで、機能一覧からは読み取れない差が見えます。
各製品の金額と条件はワークフローシステム比較に、経路そのものの作り方は承認経路の設計に、決裁の基準を見直す話は決裁規程と職務権限規程の見直しにまとめています。
参考にした一次情報
- デジタル化・AI導入補助金2026(中小企業デジタル化・AI導入支援事業の事業名、申請枠、事前登録と交付申請の受付開始日、ITツール検索、SECURITY ACTION自己宣言IDの登録)
- ジョブカンワークフロー プラン・料金(月額最低利用料金5,000円という金額の下限)
- コラボフロー 価格・導入費用(最低5ユーザー・最低2か月という下限、1ユーザー単位と1環境単位のオプション)
- グルージェントフロー 価格表(最低25ID・最低利用期間1年という下限)
- rakumo ワークフロー 料金(Google Workspace有料版という前提、12ヶ月単位の契約)
- X-point Cloud 料金(契約1件あたりの基本サービス料という下限、オプションの課金方式)
制度と金額は改定されることがあります。この記事の内容は2026年9月6日に各公式サイトで確認したものです。補助金の要件は年度ごとに変わるため、申請の前に必ず公式サイトで最新の内容をご確認ください。

