ビジネスチャットを選ぶとき、入るときの条件は誰でも見ます。見落とされるのは出るときの条件です。過去のやり取りを取り出せるのか、契約を途中で終われるのか、無料のまま使っていた期間のデータはどうなるのか。5製品の公式ページを見ると、この3点を料金表に書いている製品はほとんどありません。この記事では、確認できたことと確認できなかったことを分けて並べ、契約前に何を聞いておけばよいかを整理します。
- データの取り出しを料金表に明記しているのはdirectだけ。有料プランで期間無制限・月1回まで、フリーは不可。
- 解約の手続きと返金の条件は、5製品とも公式の料金ページに記載が見当たらなかった。
- 月単位の契約が用意されていないのはWowTalk(年間契約のみ)。
- 無料プランのまま長く使うと、履歴の区切り(40日・90日・180日)を越えた分が残らない可能性がある。
- 取り出せたとしても、移行先がそのまま取り込めるとは限らない。形式の確認は別に必要。
出るときの条件を先に見る理由
チャットは、社内の記録が集まる場所になります。導入から1年もすれば、見積もりの経緯、仕様変更のやり取り、トラブルの対応履歴が積み上がります。そこで乗り換えを検討したとき、記録が引き継げないと、実質的に移れなくなります。金額で有利な製品が見つかっても動けない、という状態です。
この拘束は、契約書ではなくデータの側から生まれます。だからこそ、入るときに確認しておく必要があります。契約してから1年経って調べても、選択肢は増えません。
もう1つ、出るときの条件を見ておくと、入るときの判断も変わります。取り出す手段が用意されている製品なら、多少の不安があっても始めやすくなります。逆に、取り出せるかどうかが分からない製品を選ぶなら、重要な記録を別の場所にも残す運用を最初から組んでおくことになります。同じ金額でも、この差は運用の負担として効いてきます。
データを取り出せる製品と、分からない製品

directの料金表には、データエクスポートという行があります。フリーは「-」、有料プランは「○」で、注記として期間無制限・月1回までと書かれています。5製品のうち、取り出しの可否を料金表の項目として持っているのはこの製品だけでした。
Slackはプロプランのページに「メッセージ・ファイルのカスタム保存ポリシー」という記載があり、セキュリティのページにはeDiscoveryや訴訟ホールドが挙げられています。ただし、これらがどのプランで使えるかは料金ページ側で確認する必要があります。
LINE WORKSは、オプション商品の「アーカイブ(トーク)」(1ユーザー月300円・年額契約)で、トークの送受信データを最長10年間保存できると案内されています。保存はできますが、解約時にそれを外部へ持ち出せるかどうかは料金ページからは読み取れません。
Chatworkは、無料版と有料版の違いを説明するページに、フリーからアップグレードした場合について「既にChatworkをご利用中の場合でも、アップグレード後は現在のご利用データをそのままお使いいただけます」という記載があります。これはプラン変更の話であって、解約時の持ち出しについてではありません。WowTalkは、トークログの保存範囲(シンプルは過去12ヶ月間、スタンダードは無制限)が管理機能として書かれていますが、取り出しの可否は料金ページに見当たりませんでした。
契約期間が短いほど動きやすい

Chatworkは年間契約と月間契約、LINE WORKSは年額契約と月額契約、Slackは年払いと月払いを選べます。いずれも長い期間を選べば安くなり、その差はChatworkが2か月分、LINE WORKSが約20%、Slackが1割強です。
WowTalkの料金ページには「年間契約のみ」と書かれています。月単位で契約する選択肢が用意されていないため、導入して合わないと分かっても契約期間は残ります。directの料金表には契約期間に関する記載が見当たりませんでした。
無料プランのまま使い続けたときの落とし穴
無料プランには、履歴の区切りがあります。Chatworkフリーは直近40日以内、Slackフリーは90日分、directフリーは180日間です。この期間を越えた分は、無料のままでは扱えません。
ここで問題になるのは、有料化のタイミングではなく、乗り換えのタイミングです。無料で半年運用したあとに他社へ移ろうとしても、そもそも過去のやり取りが画面に出てこない、あるいは取り出す機能が用意されていない、という状態になり得ます。directのフリープランは、データエクスポートが「-」と明記されており、この形にあてはまります。
対処は2つあります。1つは、無料で試す期間を最初から区切ること。3か月なら3か月と決めて、その時点で有料化か中止かを判断します。もう1つは、無料の期間に本番の記録を寄せないこと。重要な合意や金額のやり取りは、有料化するまではメールなど別の手段に残しておく形です。
人数の枠が広い製品もあるため、無料のまま本番運用に入ってしまうことがあります。しかし履歴の区切りと取り出しの制限は、あとから遡って解除できるとは限りません。無料で始める場合は、いつ有料化するかを先に決めてください。
取り出せても、そのまま移せるとは限らない

エクスポートができるとしても、それは元の製品からファイルを出せるという意味です。出したファイルを移行先が取り込めるかは別の話になります。チャットのデータは、メッセージ本文だけでなく、送信者、時刻、返信の親子関係、ファイルの添付、既読の情報などで構成されています。移行先の製品が同じ構造を持っていなければ、一部は落ちます。
実務では、全部を移そうとしないほうが現実的です。移すのは、これから参照する見込みのある記録に絞り、それ以外は元の製品を読み取り専用で残すか、ファイルとして保管します。契約が続いているうちにエクスポートを実行しておけば、解約後に慌てずに済みます。directのように月1回までという制限がある場合は、実行する月を決めておく必要があります。
もう1つ、移行のときに問題になるのがファイルです。チャットに添付したファイルは、本文とは別に保管されていることが多く、エクスポートに含まれるかどうかが製品によって違います。図面や契約書をチャットでやり取りしている場合、この点は本文より優先して確認する項目になります。
履歴の区切りを一覧にしておく
乗り換えの計画を立てるとき、最初に押さえるのは「今の製品でどこまで遡れるか」です。これが分かっていないと、移す対象の量が見積もれません。公式ページの記載を並べると次のようになります。
| 製品 | 無料プラン | 有料プラン |
|---|---|---|
| Chatwork | メッセージの閲覧は直近40日以内 | スタンダード以上は制限なし |
| LINE WORKS | 料金ページに記載なし | 料金ページに記載なし。オプションのアーカイブで最長10年間 |
| Slack | 90日分の検索可能なメッセージ | プロ以上は無制限のメッセージ履歴 |
| direct | データ保存期間180日間 | 無期限 |
| WowTalk | 無料プランなし | トーク検索はシンプル90日間・スタンダード1年間、トークログはシンプル過去12ヶ月間・スタンダード無制限 |
この表で分かるのは、遡れる範囲がプランによって大きく変わることです。無料のまま運用してきた場合、そもそも移す対象が40日分や90日分しかない、ということも起こります。逆に有料で無制限にしてきた場合は、数年分のデータが対象になり、取り出しに時間がかかります。
ここで注意したいのは、「見られる範囲」と「保存されている範囲」が同じとは限らないことです。Chatworkのプラン別機能一覧では、メッセージの保存が全プランで制限なし、メッセージの閲覧がフリーで直近40日以内と、別の項目に分けられています。閲覧できない期間のデータが、解約後にどう扱われるかは公式ページからは読み取れません。
契約前に聞いておく5つの質問
- 契約期間の途中で解約できますか。できる場合、いつまでに申し出る必要がありますか。
- 解約したとき、残りの期間の返金はありますか。日割りか、月割りか、返金なしか。
- 解約後、過去のメッセージとファイルはどうなりますか。いつまで参照できますか。
- データを取り出す方法はありますか。ある場合、形式は何で、回数の制限はありますか。
- 添付ファイルはエクスポートに含まれますか。本文だけでなく、実体のファイルも出せますか。
この5つは、いずれも公式の料金ページでは確認できませんでした。申込み前に問い合わせ、回答をメールなどの記録に残る形で受け取っておくと、あとで前提が変わったときに確かめられます。口頭の回答だけで年間契約を決めるのは、避けたほうが安全です。
そもそも乗り換えるべきかを先に判定する
乗り換えには、契約の手続き、アカウントの作り直し、社内への説明、社外への案内、データの移行が伴います。手間に見合う理由があるかを先に判定しておかないと、途中で止まって両方が中途半端になります。
理由として成立しやすいのは3つです。第一に、人数が変わって料金の型が合わなくなった場合。1人あたりの単価型で人数が3倍になった、人数帯の定額型で帯の入口に留まっている、といった状況では、金額差が手間を上回ることがあります。第二に、社内規程が変わって必要な管理機能が増えた場合。IPアドレス制限やシングルサインオンが必須になると、今のプランでは満たせないことがあります。第三に、使い方が変わった場合です。社内だけだった運用に社外の相手が加わる、現場の写真を大量に扱うようになる、といった変化は、製品の向き不向きに直結します。
逆に、理由として弱いのは「使いにくいという声がある」だけの場合です。操作の不満は、運用の設計で解決することが多く、製品を変えても同じ問題が起きます。グループの分け方や通知の設計を見直しても改善しないと確かめてから、乗り換えの検討に進むほうが確実です。
判定の目安として、年間の金額差が移行の工数を上回るかどうかを見ます。30人の会社で月2万円の差なら年24万円です。移行に社内で10人日かかるとして、その工数と比べます。差が小さいなら、契約更新のタイミングまで待つほうが合理的です。
乗り換え先を選ぶときに見る条件
乗り換えを検討している場合、次の製品を選ぶ基準は新規導入と少し違います。すでに運用の経験があるため、何が必要で何が要らなかったかが分かっているからです。
| 確認する条件 | 製品ごとの違い |
|---|---|
| 今の人数で総額がどうなるか | 1人あたりの単価型(Chatwork・LINE WORKS・Slack)、人数帯の定額型(direct)、最低30IDの単価型(WowTalk)で計算方法が違う |
| 短い期間で契約できるか | WowTalkは年間契約のみ。他の3製品は月単位の契約を選べる(directは料金表に記載なし) |
| 取り出しの手段があるか | directは有料プランで月1回まで。他の4製品は料金ページに記載なし |
| 今使っている連携が続くか | Slackは有料プランでアプリ連携が無制限。他の製品は料金ページに連携数の記載が少ない |
| 社外の相手をどう移すか | 相手のアカウントを使う製品、ゲストとして招く製品、社外接続を有料に置く製品で移行の手順が変わる |
とくに最後の項目は見落とされます。社内のアカウントは管理者がまとめて作り直せますが、社外の相手には新しいツールへの参加を依頼することになります。取引先が多いほど、この連絡だけで数週間かかります。乗り換えの計画には、社外への案内の期間を入れておいてください。
移行の進め方
移行は、一斉に切り替えるより、期間を区切って並行させるほうが失敗しにくくなります。ただし並行期間が長いと、どちらに書けばよいか分からなくなり、両方が中途半端になります。
- 期間を2週間から1か月に区切る。それより長いと、古い側に戻る人が出ます。
- 新しい側で始める会話を決める。「今日以降に始まる案件は新しい側」のように、境目を日付で切ります。
- 古い側は読み取りだけにする。新規の投稿を止め、参照専用にします。
- エクスポートを実行する。契約が生きているうちに、取り出せるものを取り出します。
- 解約の申し出をする。期限がある場合は、並行期間の開始時点で手続きを始めます。
この順番なら、古い側の契約が切れる前に必要な記録を確保できます。逆に、解約してから取り出そうとすると、間に合わないことがあります。
乗り換えと解約に関するよくある質問
過去のやり取りを新しいツールに移せますか。
製品によります。料金表にデータエクスポートを明記しているのはdirectで、有料プランは期間無制限・月1回まで、フリーは不可です。他の4製品については、公式の料金ページで可否を確認できませんでした。
解約すると過去のメッセージは消えますか。
5製品とも、解約後のデータの扱いは公式の料金ページに記載が見当たりませんでした。契約前に問い合わせて確認してください。
年間契約の途中で解約できますか。
契約期間の途中の解約について、料金ページに記載を見つけられませんでした。WowTalkは「年間契約のみ」と明記されており、他の3製品には月単位の契約が用意されています。
無料プランのデータは移せますか。
directのフリープランは、料金表でデータエクスポートが「-」となっています。無料のまま長く使う場合は、この点を先に確認してください。
添付したファイルも一緒に取り出せますか。
エクスポートに添付ファイルが含まれるかどうかは、5製品とも料金ページに記載がありませんでした。図面や契約書を扱っているなら、本文より優先して確認する項目です。
あわせて読む記事
- ビジネスチャット5製品比較(料金の決まり方・契約の下限・履歴の残り方)
- ビジネスチャットの導入手順
- ビジネスチャットの管理機能とセキュリティ
- directの料金と機能
- WowTalkの料金と機能
- Chatworkの料金と機能
- LINE WORKSの料金と機能
- Slackの料金と機能
参照した一次情報
- direct 料金プラン(株式会社L is B/2026年9月10日確認)
- Chatwork 無料版と有料版の違い(株式会社kubell/2026年9月10日確認)
- LINE WORKS 利用料金のご案内(LINE WORKS株式会社/2026年9月10日確認)
- Slack 料金プラン(Slack/2026年9月10日確認)
- Slack プロプラン(Slack/2026年9月10日確認)
- WowTalk 料金(キングソフト株式会社/2026年9月10日確認)
