BtoBのWebサイトを作成するにあたり、「何から手を付ければよいのか」という問題に最初に遭遇するはずです。
もちろん、サイト設計・デザイン・写真(動画含む)・テキストコンテンツなど、様々な側面からの作りこみが必要ですが、ここでは特にWebライティングに焦点を当てて考えてみたいと思います。
最初にライターが自分自身に問うべきなのは、「この商品はだれに・どのように使ってもらいたいのかということを熟知しているかどうか」というポイントです。
「そんなことはわかっているよ」という答えが返って来そうですが、その認識は本当に正しいでしょうか。
BtoBは、「購入に至るまでの期間が長い」「意思決定が様々な役職を越え何段階にも及ぶ」ことが特徴です。
個人に購入してもらうまでの道のりとは、全く異なるプロセスをたどるのです。
稟議書には、数多くの押印欄がありませんか?
その、印鑑を押す人すべてが納得をしなければ、購入・導入ができないのです。
ここをまず充分に理解しておきましょう。
1.「この商品で、誰がどのように得をするのか」を分解して理解しておく
企業が購入(導入)する商品・サービスは、会社全体に資するものと、ある一部の部署で活用されるものに分けられます。
まず、この部分の切り分けをきちんと行っておきましょう。
その後、その商品やサービスの利用シーンを具体的に提示できるよう、自分自身の中でできるだけ多くイメージしておきます。
既に利用者の声など、ライティングで活用できるソースがあればそれを自分なりに噛み砕いておきます。
この段階に、一番時間を割くべきでしょう。
活用事例は、ライターにとって一番強力な味方ですから、時間が許す限りじっくりと読み込んでください。
その上で、次に行う作業は「誰がどのように得をするのか」という部分までの落とし込みです。
例えば、PCを利用したタイムカードと連携した勤怠管理・人件費管理・人事考課までをカバーするサービスがあるとします。
- 一般社員のメリット
- 総務課のメリット
- 各課長のメリット
- 人事部のメリット
のようなものが主な訴求ポイントとなるはずです。
それぞれの立場でのメリットをすらすらと思い浮かべられるようになるまで、既存ユーザーの声や、商品パンフレットなどを熟読しておきましょう。
それぞれの立場の人たちが得られるメリットはどれだけありますか?
実際にデイリーに使うものですから、このメリットを数多く挙げれば挙げるほど、導入を検討してもらえることでしょう。
- 一般社員→タイムカードを押すことなく、PCに電源を入れるだけで「出勤」
- 総務課→勤務時間、出勤・欠勤をリアルタイムで確認でき、時間外勤務にかかる追加の人件費の伸びをグラフで見ることができる
- 各課長→自分が取りまとめている課の誰に労働負荷がかかっているかの把握ができる
- 人事部→各課長がそのシステムに入力する情報に基づいて人事考課・査定の基礎データを作成できる
このように、組織内で様々な役割を担う人たちの、それぞれの役割においてメリットとなる点をスラスラと思い浮かべられるようになるまで、その商品と向き合ってみましょう。
2.「ベネフィット」―メリットを具体的に提示する
先に切り分けた、立場(部署)ごとのメリットを、可能な限り数値で表現してみましょう。
既存ユーザーからヒアリングした事をベースに、
- 一般社員→タイムカードを押すなど特別な事をしなくても良くなったのでかかる時間は「0」。
- 総務課→勤務時間の累積計算をしなくてよくなったので、かかる時間は「0」。
- 各課長→これまで見えてこなかったスタッフの負荷が一目瞭然、相談に乗る・ミーティングを開くなど「即対応」できる。
- 人事部→メールやプリント類で取りまとめていたものが、システム上に既にある程度蓄積されているので、人事考課・査定資料作成時間が「45%削減」できた。
のように具体的に「見える化」してください。
可能な限り、数値で示すのが理想的です。
というのも、BtoBの特徴として「費用対効果をより重く見る」ことが挙げられるからです。
比較的高価な商品を取り扱うのもBtoBならではの側面です。
「あれだけ支払って、これだけの効果しかないのか」と思わせてしまうと、検討のテーブルにさえ乗りません。
そのため、この「ベネフィットの提示・明示」こそが、この段階での主な作業です。
ヒアリングシートで上げられたメリットの多い順に提示するとよいでしょう。
その商品の良い点全てを挙げられればよいのですが、多すぎても読みづらい文章となります。
挙げるメリットには、優先順位をつけておいてください。
3.より身近に感じさせる「共感」
通常、人は自分の置かれている立場に近い事例ほど興味を示します。
そのため、先の段階でピックアップしておいたヒアリング内容や、立場ごとに得られるメリットをうまく組み合わせ、それぞれの立場(役職)で納得できるような文章を作成しましょう。
「ああ、こういうこと、あるある」と思ってもらえればしめたものです。
一部分でもこのような共感を得られれば、本文を更に読み進めてもらえます。
そして、「こういうことは解決できるのかな」「いつもあるあのトラブルも回避できるのかな」と、読み手は自ら考え始めることでしょう。
「まずは一緒に考えてみませんか」と、相手の立場に寄り添う文章となるよう心がけてください。
ここでは、間違っても「弊社が解決してみせます!」といった、押し付けがましいイメージは避けて欲しいと思います。
読み手自身に「これ、あるある」「解決したい」と自ら考えて欲しいこの商品説明の段階で、「私共(弊社)が」を強調しすぎると、読み手自身の自己解決思考が途切れてしまいます。
確かに、その問題の解決策はPRしたい商品が持ってはいます。
が、「押し付けられた結論」と、「自ら考え、選択した結論」では、より積極的に活用してみたいという思いの強さが大きく変わってくるからです。
だれもが日常生活の中で遭遇する、「私に似た人・似た経験を持つ人」に興味を持ち、共感し、何とか解決策が無いかと自分の事のように考えてみるという体験。
これを、このPR文章の中で経験してもらわなくてはなりません。
文章を魅力的にするには、この「共感」がとても大事です。
「自分だったらこう使いたい」とまで思ってもらえれば、その人の心を掌握したも同然です。
4.各立場で得られるメリットを一度に提示する
一番最初に行った切り分け作業と、それぞれの立場にもたらす利益が明確になり、そのメリットを「共感させる」ように文章を書き上げたのなら、それをひとまとめにしてページに配置してください。
といっても、1ページに押し込むのではなく、
- 一般社員
- 総務課
- 各課長
- 人事部
ごとにページを分け、トップページにリンクを作成します。
それぞれの立場の人が、「自分ならばここを読む」と明確にわからなくては、相手の時間を奪うだけです。
また、このページの振り分けの作業をしておかなければ、後で文章の微調整などのブラッシュアップ作業が必要になった時、面倒なはずなのです。
一番最初にBtoB営業の特徴を挙げましたが、覚えていらっしゃいますか?
- 購入や導入に至るまでの時間が長い
- 最終決裁権を持つ人の手元に至るまでのプロセスが複雑
- 各立場の人がそれぞれに納得できなければ、購入行動に至りづらい
―でしたね。
一度でも飛び込み営業をしたことのある方ならばお分かりでしょうが、「このような商品のご紹介はどの部署へお伺いすればよいですか?」から始まり、それぞれ関連する部署の担当者を個別に説得して回り―というとてもスパンの長い作業が求められます。
これを、Webページで行うのですから、最初から関連各部署の人たちを納得させる文章を、それぞれの立場の人が自ら選んで読めるサイト設計にしておくべきなのです。
こうすることで、だれかが「このサービスを導入したい」「この商品を購入したい」と社内で声を上げた時に、各立場の人たちが一斉に検討に入ることができます。
関連する各部署に個別に足を運ぶ営業活動と同じことが、Webサイトひとつで行えることになるのです。
実際に足を運んで最終的な営業活動を行う時には、既にその会社の問題点がある程度出尽くしている、その会社なりの活用方法の仮説が立っている、という理想的な状況を作れている可能性があるのです。
先の「共感」を得る文章がどれだけ大切か、この段階でお解り頂けたでしょうか。
5.「親しみやすさ」と「信頼性」のバランス
思考を「流れるように」よどみなく書き上げることも大事です。
相手の悩みに沿い、一緒に考えましょうというスタンスで解決方法をそっと提示する―。
基本ともいえる文章の組み立て方はとても大切です。
それと同時に、「親しみやすさ」を意識して頂きたいと思います。
文体や表現が余りに硬すぎると、資料請求や、説明しに来てほしいなどの依頼をかけづらくなります。
かといって、柔らかすぎる文体や表現も、信頼性を失うことになり機会損失に繋がります。
BtoBのビジネスシーンでは、やはり商品そのものの「手堅さ」が求められます。
そのため、親しみやすさと同時に信頼性を醸し出すよう、文章のイメージをコントロールしなくてはなりません。
このイメージは、その商品のみならず、あなたの属する会社そのもののイメージにも直結します。
一度書いたものは、自分自身で推敲を重ね、最終的にプロジェクト内のすべての人に見てもらいましょう。
サイトデザインや、使用する画像など、トータルで考えなくてはならない面もあるからです。
忌憚ない意見をもらい、必要ならば大きく手を入れることもためらわず実行してください。
6.「正しい日本語」の効果
全ての関連部署にいる、全ての世代の人に安心感を抱いてもらうためには、とても大切なキーワードが存在します。
それは、「正しい日本語」です。
文体もそうですが、この「正しい日本語」をクリアしていなければ、会社そのものが軽く見られてしまいます。
「どうせ若い社長が立ち上げた、ポリシーもビジョンも軽い会社だろう」と判断されてしまえば、元も子もありません。
ライターは、会社そのもののイメージを左右する役割を担っていると言っても過言ではないのです。
話し言葉では許される言い間違いや、一般的とされる言葉でも、書き言葉にしてしまうとその「軽さ」が非常に目立ちます。
例えば
- ら抜き言葉(「食べられる」→「食べれる」)
- 「全然大丈夫です」(「全然」の後には「ダメです」のような否定形が正しいとされています)
のようなものが代表的でしょうか。
BtoBビジネスの文章の特徴は、あらゆる世代に受け入れられなくてはならないということです。
また、実際に稟議書の承認印鑑を押してくれるであろう世代は、これら「正しい日本語」を好む傾向にあります。
これをしっかり意識し、親しみやすさの中にも、丁寧で正しい日本語を使用しているかについても、細心なチェックを重ねておきましょう。
全てにおいて「バランス」を重視
サイトの構成からライティング、画像の使用に至るまで、一貫性がとても重要であることは既にご存知のはずです。
今回は特にライティングに焦点を当て、BtoBサイトで主に重要視しなくてはならないポイントを6つピックアップしました。
BtoBにおけるライティングで気を付けたいポイントは、やはり「信頼性」「正しさ」でした。
これらのポイントに気を付けながら、自社のイメージさえ左右するライティングという仕事に臨んでください。
そして、より多くの「資料請求」「説明を聞きたいという依頼」というアクションを引き出してください。
ライターの腕は、このアクションを引き出せていくら、です。
上の6つのポイントが、日々の仕事のお役に立つ事を願っています。
ライティングに関するおススメ書籍です。レビューは下記よりどうぞ。
【読了後レビュー】「ウェブセールスライティング習得ハンドブック(寺本隆裕著)」