ネット取引をよく行う消費者、B2Cの取引をこれから始めようと考えている事業者が気をつけなければいけないのが、電子契約法。
実は、ネットでもクーリングオフが使えるのに、利用している消費者が少ないのは、電子契約法の詳細を理解していないからです。
そのため、今回は『電子契約法とは?電子契約法の押さえておくべきポイントをわかりやすく解説』という記事のタイトルで電子契約法について詳しく解説します。
電子契約法とは?
電子契約法は正式名称を「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」といい、平成13年(2001年)12月25日から施行された法律です。
この法律は、インターネット等の電子商取引の発達に伴って増加している、消費者の操作ミスの救済や、隔地者間の契約の成立時期について民法の原則を修正するものです。
電子取商引では書面による契約のように誤りに気付く時間的余裕がなく、また口頭による契約のように容易に誤りに気付いて訂正したりできないところに問題があるため、特例として救済される制度になっているのです。
対象は事業者と消費者との電子商取引ですので、事業者同士の場合には適用されません。
ただし、事業者であっても事業として、またはその事業の目的のためではない取引は対象となります。
また、電子契約法における取引の対象となる方法は、電話やテレックス、ファックス、無線、電子メール、ウェブサイト上での入力、携帯電話、コンビニにある専用端末を使用した取引等があります。
そんな電子契約法で押さえておくべきポイントは、
- 電子商取引における消費者の操作ミスの救済
- 電子商取引における契約の成立時期の転換
の2つです。
そのため、電子商取引における消費者の操作ミスの救済、電子商取引における契約の成立時期の転換についてそれぞれ、詳しく説明します。
電子商取引における消費者の操作ミスの救済
B2C(事業者・消費者間)の電子契約では、消費者が申込みを行う前に、消費者の申込み内容などを確認する措置を事業者側が講じないと要素の錯誤にあたる操作ミスによる消費者の申込みの意思表示は無効となります。
消費者の操作ミスの救済
B2Cにおける、ウェブを利用したいわゆる「インターネット通販」や、キオスク端末などの専用端末を用いて専用線を通じて取引を行うような形態の電子商取引では、通常は、事業者が設定した画面上で、消費者が申込みを行います。
その際、消費者がマウスなどの機器の操作を誤って、意図しない申込みをしてしまうことが多々あります。
そのような場合は、民法によって、契約は無効となりますが、現在の民法では、事業者から、消費者に「重大な過失」がある場合には契約は有効であるとの主張ができることになっています。
そのため、B2Cの電子商取引においては、消費者に「重大な過失」があったか否かを巡ってトラブルが発生することになってしまいます。
※操作ミスによる申込みと民法
操作ミスによる意図しない申込みは、民法では、第95条に規定する「要素の錯誤」に該当します。
要素の錯誤に該当する意思表示は原則無効となるとされています。
しかし、その錯誤が重大な過失による場合まで意思表示をした者を保護する必要はありませんので、民法はそのような場合は、相手方から、その意思表示は有効であると主張することができるものとしています。
電子契約法による手当
このため、B2Cの電子商取引において、事業者側がパソコン等の画面上に申込み手続きを設定するような契約については、事業者側が、消費者の申込み内容などの意思を確認するための適切な措置を設けていない場合には、原則として、操作ミスによる契約を無効とすることとしました。
電子契約法の4つの注意点
電子契約法には以下の4つの注意点があります。
- 「電子消費者契約」とは、どのような契約を対象としているのか
- 消費者の「錯誤」はどのようなものを想定しているのか
- 事業者が設定する確認措置とはどのようなものを想定しているのか
- その他留意すべきことはありますか
①「電子消費者契約」とは、どのような契約を対象としているのか
「電子消費者契約」とは、電子的な方法により締結された契約のうち、
- B2C(例えばC2Cオークションは基本的には対象となりません。)
- パソコンなどを(消費者が所有する機器が否かは関係ありません)用いて送信される消費者の申込み又
は承諾の意思表示が - 事業者などの設定した画面上の手続
に従って行われる契約です。
したがって、B2Cにおける、インターネット通販や専用端末・専用線をつかった電子契約が主な対象です。
②消費者の「錯誤」とはどのようなものを想定しているのか
例えば、
- 申込み内容を入力せずに、申込みをするか否かだけを判断するような申込み画面で、申込ボタンをクリックするつもりがなかったのに、操作ミスによって誤って申込ボタンをクリックしてしまう場合、
- 申込み内容を入力する画面で、1個と入力しようとして、操作ミスによって11個と入力してしまい、そのまま申込みを行ってしまう場合
の2つの事例が考えられます。
民法上、これらは「錯誤」と言われますが、一般の契約における「言い間違い」「書き間違え」に該当するものと考えれば分かり易いでしょう。
③事業者が設定する確認措置とはどのようなものを想定しているのか
(2)で挙げた例に即して考えると、それぞれ、例えば、
- あるボタンをクリックすることで申込みの意思表示となることを消費者が明らかに確認することができる画面を設定すること
- 最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示し、そこで訂正できる機会を与える画面を設定すること
などが考えられます。
例えば、下記のような入念な方法を分かりやすく提示すれば、確認措置としては十分と考えられますが、消費者の意思の有無を実質的に確認していると裁判所が判断できるような確認措置となっていることが必要となるので、形式的に確認措置としての是非が自動的に決まるものではありません。
④その他に注意すべきことはあるのか
電子商取引に慣れた消費者が、自ら確認措置が必要ないと選択した場合には、電子商取引法は適用されません。
ただし、その場合には、消費者が自ら望んで確認措置が必要ないと積極的に選択をする必要があり、その認定は慎重になされると考えられます。
例えば、事業者側によって誘導されたり、確認措置を求める場合は積極的に消費者がその選択をしなければならないような画面となっている場合(例えば下記②のような場合)には、そのような認定はなされないと考えられます。なお、確認措置が不要であると消費者が選択したことの立証責任は事業者が負担することになります。
このように、電子商取引法は、行政規制立法と異なり、民事的なトラブル解決を目的としています。
規定の解釈は、個々の事例に応じて、裁判所が適切に判断することになります。
電子商取引における契約の成立時期の転換
次に、電子商取引における契約の成立時期の転換について説明します。
電子契約は、承諾の通知が申込者に到達した時に成立することになります。
電子契約の成立時期の転換とは
民法では、隔地者間の契約(申込みに対する応答が直ちになされる対話者間の契約以外の契約)については、承諾の通知が発信された時点を契約の成立時点とするルール(発信主義)が採られています(意思表示一般の場合は、相手方に通知が到達したときに効力が生じる(到達主義)ものとされています。)。
このルールによれば、一度承諾の通知が発信されてしまえば、仮に承諾の通知が途中で紛失するなどしてその通知が申込みをした人に到達しなくても、契約は成立したことになります。
このルールは、民法が立法された当時は隔地者間においては承諾の通知が相手方に到達するまでにある程度の時間がかかるという技術的な制約を前提にした上で、承諾の通知が発信されれば、その時点で契約が成立することとし、迅速な取引の成立を図ることとしたものであると言われています。
この結果、承諾の通知が着かない場合などのリスクを申込みをする者が負担することになっています。
電子契約制定後の成立時期の転換
インターネットなどの電子的な方法を用いて承諾の通知を発する場合には、瞬時に相手方に意思表示が到達するため、発信主義を維持する前提を欠くものと考えられます。
そこで、そのような場合については、契約成立時期を、承諾の通知が到達した時点へと変更することにしました(到達主義への転換)。
『電子契約制定後の成立時期の転換』における2つの注意点
電子契約制定後の成立時期の転換には以下の2つの注意点があります。
- 到達主義へと転換するのは、どのような契約を対象としているのか
- 到達の時点は具体的にはどのようになるのか
①到達主義へと転換するのは、どのような契約を対象としているのか
隔地者間の契約(申込みに対する応答が直ちになされる対話者間の契約以外の契約)で、承諾の通知が電子的な方法で即時に伝達されるものです。具体的には、パソコンなどCPUが内蔵されている機器、FAX、テレックス、留守番電話といった機器を使用して、電子的に承諾の通知が発せられる契約です。
例えば、電子メールやFAX、テレックス、留守番電話などを利用した電子契約が対象となります。
②到達の時点は具体的にはどのようになるのか
民法では、承諾の通知の到達時点については特段の規定を設けていません。
電子契約法は、電子契約について、隔地者の契約の成立時期を発信主義から到達主義に転換するものですから、承諾の通知の具体的な到達時点については、民法の解釈に委ねられることになります。
現在の民法の考え方では、「到達とは、相手方が意思表示を了知し得べき客観的状態を生じたこと」を意味するとされています。
例えば、郵便物が郵便箱に入れられたり、同居人がこれを受領するなど意思表示を記載した書面が相手方の勢力範囲内に入ることとされています。
電子承諾通知に、この考え方をあてはめると、例えば、電子メールの場合には、相手方が通知にアクセス可能となった時点が到達の時点になると考えられます。
具体的には、メールサーバーのメールボックスに情報が記録された時点となるでしょう。
ただし、メールサーバの故障などの特別の事情があった場合などには、当然、裁判所が諸々の事情を考慮して個別に判断をすることになります。
事例をもとに電子契約法を解説
今回は以下の2つの事例
- パソコンの操作を誤って誤発注した場合
- ネット事業者から承諾の電子メールが届かなかった場合
をもとに電子契約法を解説します。
①パソコンの操作を誤って誤発注した場合
例えば商品1個を注文したつもりが、パソコンの操作を誤って11個と入力してしまった場合、消費者は民法の錯誤の規定を活用して、事業者に契約の無効を主張することができます。
しかし、従来は「操作ミスについて重大な過失がある」と事業者から反証されるケースが少なくありませんでした。
電子契約法が施行されたことで、注文内容を確認して訂正できる画面を設けるなど、事業者が操作ミスを防止するための措置を講じていないときは、消費者に重大な過失があっても契約を無効とすることができるようになりました。
ただし、ネットオークションなど個人間の取引の場合や、事業者が画面に表示した手続きに従うのではなく自分で電子メールを書いて申し込んだ場合などは契約法上は「電子消費者契約」に該当しないので、注意が必要です。
②ネット事業者から承諾の電子メールが届かなかった場合
民法では、隔地者間の契約の成立時期は、郵便という時間のかかる手段を前提としているため、契約の早期成立を図る観点から、契約の承諾をする者が承諾の通知を発した時点としています。
そのため、例えば、ネット通販で消費者が商品を注文した後、通信障害などで事業者から承諾の電子メールが届かなかった場合、従来はいつ契約が成立したのか消費者の側にはわからず、メールの不着から生じるリスクを負わねばなりませんでした。
しかし、電子契約法では契約成立時期を通知が到達した時点としました。
到達主義を採用すれば、メールが届くまでは契約が成立しないことが明らかなので、メールが届かないことから生じるリスクは事業者が負うことになります。
ただし、事業者がメールで申込みを受けていても、最終的な承諾の意思表示を郵便で行う場合には発信主義となるので、注意が必要です。
事業者が注意すべき電子契約法の2つの注意点
電子契約法は、先程の述べたように、インターネット上のでB2C取引において、取引の対象が有体商品に関する取引に関する法律です。
先程までは消費者視点で解説しましたが、今回は事業者側の視点で注意点を解説します。
①電子契約法の契約成立時期
契約の成立時期は、民法では売主が承諾したときとなりますが、買主に到達したとき(正確には、買主が契約しているプロバイダのサーバーにメッセージが到達したとき)に契約が成立するとされています。
そもそも、電子メールは、送信から受信までの時間が非常に短いこと、システムの不具合等で電子メールが到達しない場合の消費者の不利益を回避するために到達をもって契約が成立するとされました。
②操作ミスによる契約無効
消費者が重複注文や誤入力等の操作ミスにより契約を締結した場合、そのミスが契約の要素にあたる場合には、注文行為の無効を主張され、契約が無効であることを主張される場合があります。
ただし、特定商取引法によって義務付けられている確認画面の表示がされている場合には、契約の要素にあたる部分に誤入力があったとしても、消費者は錯誤無効を主張することはできません。
その点は事業者にとって、ありがたい法律と言えるでしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は『電子契約法とは?電子契約法の押さえておくべきポイントをわかりやすく解説』というタイトルで、
- 電子契約法とは?
- 電子商取引における消費者の操作ミスの救済
- 電子商取引における契約の成立時期の転換
- 事例をもとに電子契約法を解説
- 事業者が注意すべき電子契約法の2つの注意点
について、解説しました。
ただ、経済産業省のHPにも記載されていますが、近年、ネット取引が複雑になってきているため、電子契約法にあたるケースは今後、拡大していく可能性があります。
そのため、上記で説明したケース以外にも、何か疑問に思うことがあれば、弁護士、消費者生活センターなどにその事例を相談してみるのが賢明でしょう。
事業者にとっても今後は電子契約法については注意しながら、事業を行なっていくことが賢明です。