法人保険は個人向け生命保険とは異なり、構造が非常に複雑です。
また、加入する際は良く良く考える必要がありますが、多くの人が安易に加入してしまった結果、後悔しているといったケースに陥ってしまっています。
これから加入される方のためにも、今回は『法人保険に節税効果はない!あるのは税の繰り延べ効果のみ』といったタイトルの記事で
- 法人保険の節税効果
- 法人保険の税の繰り延べ効果
などについて解説します。
まず、法人保険について解説します。
まずは法人保険、中小企業の節税対策方法について解説!
法人保険とは?
まずは、法人保険について解説します。
法人保険とは、法人が主体、契約者となり会社のお金で保険料を支払う保険のことを指します。
多くの人が勘違いしていますが、「法人保険」という保険の種類があるわけではありません。
法人保険は法人で契約しますが、保険の対象は社長や役員などの「経営者」や会社で雇っている「従業員」の2パターンとなります。
法人で契約しますが、保険の対象は社長や役員などの「経営者」や会社で雇っている「従業員」の2パターンとなります。
従業員が加入するケースは「福利厚生保険」と呼ばれていて、万が一亡くなった場合に「死亡退職金」が遺族に支給されます。
医療保障がついているものであれば在職期間にあった疾病や傷害に対しても保障されます。
経営者が加入するケースは従業員と同様の死亡・医療保障に加えて会社の貯蓄としても役割を持ちます。
会社の経営が万が一の事態に陥った時に解約して積立金を充てる方法もあります。
このように、法人保険は個人向け生命保険とは異なり、様々な機能、効果を持っています。
そのため、法人保険に入る際は注意が必要になります。
中小企業における法人保険以外の一般的な節税対策の方法
会社にかかる法人税も個人にかかる所得税も、1年間の利益に対してかかる税金です。
この税金計算のスタートとなる「利益」が、毎年コンスタントに出ていれば法人税も安定して納税できるのです。
ところが、今年だけ大きな利益が出たような突発的な場合には、翌年の予定納税など同じ調子で法人税の納税を続けていくのは経営上苦しくなります。
といっても、法人税を払うために会社が苦しむのは何か違います。
そこで、相応に負担できるだけの法人税になるように
- 将来のリスクに対して利益を保存しておく
- 設備投資しておく
- 社員を増やしておく
などの方法が挙げられます。
このように、好循環になるように獲得した利益を活用する方法を決算までに考えておくことが、正しい節税対策だといえるのです。
節税効果があると間違われやすい4つの法人保険
以下が、節税効果があると間違われやすい4つの法人保険になります。
①長期平準定期保険(ちょうきへいじゅんていきほけん)
長期平準定期保険は、長期的に、万が一の時に備えて保障してくれる保険を指します。
長期平準定期保険の保障金額は契約時から一定するが、解約返戻金については、ある程度まで上昇してピーク(解約返戻金の%が一番大きくなる)を迎えた後は、徐々に減っていくという、逓増定期保険に似た特徴を持っています。
また、途中で契約者を法人から個人に変更し、保障を継続することができるので、その時に解約返戻金があれば、退職金の準備にあてることができる点も、逓増定期保険と似ています。
長期平準定期保険は、最初から保険金額が一定しており、90歳以上など長期間にわたって利用できる保険商品もあるので、経営者など重要なポジションに就いている方に向いた保険です。
そして、長期平準定期保険は大きな保険金が下りる契約をしていれば、経営者に万が一のことが起こった時には、多額の保険金がおりるので、会社に与えるダメージを軽減することも可能です。
ただ、払込保険料が損金(経費)になる長期平準定期保険もあるので、このタイプの保険を選べば、税金の繰越しのメリットも得られます。
長期平準定期保険の主な用途としては、下記の通りです。
- 経営者や役員の死亡・高度障害保険(最初から一定額)。
- 経営者や役員の退職金、弔慰金、死亡退職金の準備。
- 解約返戻金のピークを考えた上で、計画的な必要資金の準備。
- 払込保険料が損金となる商品を選び、税の繰越し
②養老保険(ようろうほけん)
養老保険は、保険料の払込期間中は、保険による保障が得られ、満期になると満期保険金を受取ることもできます。
そのため、保険期間の満了を定年年齢に設定することで、退職金の準備にも利用できます。
また、養老保険を途中で解約した場合には、解約返戻金を受取る事ができます。
ちなみに、養老保険の中にも、払込保険料の2分の1が損金扱いになる保険もあるので、このタイプの保険を選べば、税金の繰越しのメリットも得られます。
養老保険の主な用途としては、下記のようになります。
- 経営者や役員の死亡・高度障害保険(最初から一定額)。
- 役員や従業員の退職金、弔慰金、死亡退職金の準備。
- 社員の福利厚生の充実(採用活動時などに有利)。
- 払込保険料が損金となる商品を選び、税の繰越し。
③ガン保険(経営者・役員・従業員向け)
ガン保険はガンと診断された場合に、通院・入院・手術・退院後の療養などを保障してくれる保険になります。
ガン保険は社長や専務、取締役などの役員以外に、従業員を加入させる事もできます。また、払込保険料が全額損金になり、解約時には解約返戻金が受取れる商品もあるので、以下のような用途として利用されるのが一般的になります。
また、ガン保険は途中で契約者を法人を個人に変更し、保障を継続することができるので、その時に解約返戻金があれば、退職金の準備にあてることもできます。
日本で死亡する人の多くはガンなので、保険としてのメリットも大きいですが、退職金の準備として利用できたり、払込保険料が損金になる商品もあるなど、他の面でもメリットの大きな法人保険です。
④逓増定期保険(ていぞうていきほけん)
逓増定期保険は、「一定の期間を超えると保障金額が一定の割合で増えていくが、解約返戻金は、ある程度まで上昇してピーク(解約返戻金の%が一番大きくなる)を迎えた後は、徐々に減っていく」という特徴を持った保険になります(逓増とは数量がしだいに増えることを意味します)。
そのため、逓増定期保険においては解約返戻金のピーク時に解約をし、そのお金を設備投資等に当てるという使い方をしている人が多いです。
例えば、7年後に社用車を買い替える予定があるので、その購入費用を準備したい場合、解約返戻金が7年後にピークを迎える逓増定期保険を利用すれば、効率よく、社用車の購入代金の準備ができます。
また、途中で契約者を法人→個人(経営者)に変更し、保障を継続することができますので、その時に解約返戻金があれば、退職金の準備にあてることもできます。
そして、逓増定期保険は払込保険料が損金(経費)になる逓増定期保険もあるので、このタイプの保険を選べば、税金の繰越しのメリットも得られます。
逓増定期保険の主な用途としては、下記のようになります。
- 経営者や役員の死亡・高度障害保険(徐々に金額が上がる)。
- 経営者や役員の退職金、弔慰金、死亡退職金の準備。
- 解約返戻金のピークを考えた上で、計画的な資金準備。
- 払込保険料が損金となる商品を選び、税金の繰越し。
なぜ、法人保険に節税効果はないのか、なぜ、税の繰り延ばしは危険なのか
では、なぜ、法人保険に節税効果はないのか、なぜ、税の繰り延ばしは危険なのかをそれぞれ解説します。
節税対策という言葉には疑おう
保険には保障の機能がついているのだからお金が減るのは当然のことと思われているかもしれません。
ただし、「うまく保険を活用すれば節税になって結果的にお金が増える」ということがまことしやかに言われています。
そのため、社長の退職金を生命保険で準備をするという節税対策が取られることが多いでしょう。
いわゆる掛け捨て型(定期保険)は原則として、掛けた時点で会社の損金になりますが、特定の法人保険商品の場合、掛け捨てのはずなのに、掛け金の中に実際に必要な保険料を上回る前払い分が含まれているため、解約返戻金が生じる保険があります。
何度も税制改正による狙い撃ちがあり、かなり条件は厳しくなりましたが、今でも「保険料を掛けた時に損金にしながら、いざというときには解約返戻金が手にできる」という法人保険商品はあるのです。
その節税保険の効能として次のような説明がされることがあります。
- 保険料を100万円支払って損金にし、利益が100万円減るのでその税金を約35%としても35万円の節税になるので実質の保険料負担は65万円になる。
- 解約返戻金のピークが80万円だとすると100万円の保険料を支払っても80万円しか帰ってこないのであれば、その解約返戻率は80%で「元本割れ」のように見えるが、実質65万円の負担で80万円帰ってくるならその「実質返戻率」は約123%になる。
- 保障機能もついた上に、節税にもなって高い利回りになり法人保険に加入したくなる。
この話は多くの法人保険会社のパンフレットに載っている話ですが、解約返戻金に税金が掛かるということを無視しています。
解約返戻金80万円も収益ですから税金約35%が掛かります。
つまり、解約返戻金の手取りは52万円(80-80✕0.35)なわけです。
すると実質65万円の負担で52の解約返戻金の手取りですから、やっぱり「元本割れ」で解約返戻率は80%(52÷65)に戻ります。
要するに、保険料を掛けた時点で税金の支払が減った分が、解約返戻時に増えて元に戻ったということ。
つまり、生命保険により節税になったと思われていた分は、実はその税金の支払期限が延期されたのに過ぎないということなのです。
こういう節税対策と言うより、税の繰り延ばしと言えるでしょう。
実際、世の中で言われている節税対策の多くは、この税の繰り延ばしにすぎません。
このように、法人保険においては、節税対策と言った言葉に飛びつくのではなく、本質は何なのかを理解する必要があります。
節税対策とという言葉に注意し、税の繰り延ばしなのかを疑いながら、見極めた方が良いでしょう。
節税が目的化して手許の資金を薄くなるのは危険
中小企業の社長の中には、「今は儲かっていても将来儲かるかは不透明だから今は税金を払いたくない。掛けた金額分だけでもいずれお金が帰ってくるのであれば、たとえ単なる税金の支払期限の延期であっても、十分価値はある」という方もいるでしょう。
しかし、そもそも、今手に出来るお金と10年後に手にできるお金は同じ価値ではありません(実際、将来受け取る100円は今持っている100円よりも価値は低いです。)。
相手が保険会社なので将来もらえるかどうかのリスクはあまり関係ないかもしれませんが、現在価値への割引率を低めの5%で見積もったとしても、10年後に受け取れる100万円の現在価値は約61万円(100万円÷1.629)の価値しかないことになるのです。
そのため、10年後に同じ金額を返してもらったとしても実は約4割も目減りした状態で返されているわけです。
そう言われて実感が無いとしても、保険料の支払いがなければ返済可能であった融資を受けていたら、その分の支払利息だけ余計にコストが掛かっているので、同じ金額だけ返されても損をすることは誰でもわかるはずです。
確かに、将来儲かるかどうかわからないと不安なら、いつでも使えるように手許のお金を厚くしておくべきです。
そのために無駄な支出である税金の支払いを抑えたいというのはわかります。
ただ、税金を節約するよりも多くのお金を保険料として支払って手許のお金を薄くした上に早期に解約したら大きく目減りするというのは、将来の不安への蓄え方としては本末転倒です。
節税は無駄な支出を減らして手許の資金を厚くするための手段であるが故に、その節税が目的化して手許の資金を薄くしてしまいそうな場合は注意が必要です。
解約時に大きく損金を作れるイベントがある場合は例外として節税になる場合が多い
では、法人保険は全く意味が無いのか?といえば、決してそんなことはありません。
結論から言うと、解約時に大きく損金を作れる経営的なイベントを用意し、その原資として解約返戻金を使いましょう(解約で発生する利益を消し込むことが必要になります)。
そうすることで初めて、税の繰り延ばしではなく大きな節税効果を生むことができます。
中小企業における一般的に保険解約時の利益を消し込むために用いられるイベントとしては
- 役員や社長の退職金
- 大規模修繕
などが挙げられます。
一般的に法人において、大きな金額を支払い、その全てを損金計上できるものは多くありません。
例えば、数百万、数千万単位で不動産を購入したり、設備投資をした場合も、その決算末に損金計上できるのはごくわずかと言えるでしょう。
基本的には減価償却という考え方で、経過年数に応じて徐々に(少しずつ)損金計上していくのが一般的です。
一方で、そんな数ある法人の経費の中で、役員退職金は支払った金額のほとんどを損金計上できる数少ないイベントの一つと言えます。
実際、「役員最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率」の範囲内であれば、支払った役員退職金を全て損金計上することができます。
また、法人保険においては、全額損金や半分損金の保険で利益を繰り延べた先で、その解約返戻金を退職金の原資とすることが出来れば大きな節税効果を生むことができます。
つまり、多くの人は中々理解していないですが、法人保険に節税効果はほとんどないですし、あるのは税の繰り延ばし効果のみです(上記でも述べたようにこれはこれで危険な部分はあります)。
しかし、例外として、解約時に大きく損金を作れる経営的なイベント(役員や社長の退職金、大規模修繕)を用意し、その原資として解約返戻金を使えば、法人保険に節税効果が生まれてきます。
このような、損金を作れる経営的なイベント(役員や社長の退職金、大規模修繕)が発生する場合こそ、法人保険を利用するべきです。
実際、役員や社長の退職金関連の法人保険は最近、非常に盛り上がりを見せつつまります。
法人保険に加入する際は自社のタイミング、保険の種類を十分に検討してから、加入しないと、節税は中々できないので、注意しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は『【注意】法人保険に節税効果はない!あるのは税の繰り延べ効果のみ』という記事のタイトルで、
- なぜ、法人保険に節税効果はないのか
- なぜ、税の繰り延ばしは危険なのか
- 例外として節税になる場合
などについて解説してきました。
多くの経営者にとって、法人保険はどういった商品を選ぶべきか、どのタイミングで入るべきかを中々理解している人はいません。
また、多くの経営者は法人保険に節税効果はあると考えていますが、実際は例外となる場合を除いて、ほとんどは節税効果がありません。
今回の記事を参考にして、正しい法人保険の知識をつけていただけたら幸いです。