SFAを選ぶときに後回しにされがちなのが、やめるときの条件です。ところが実際に困るのはここで、契約期間の縛りとデータを持ち出す手段の2つは、契約前に確かめておかないと選択肢が狭まります。案件と顧客の履歴はその会社の資産なので、置き去りにすると次の仕組みを一から作り直すことになります。
先に結論。契約期間は製品によって月単位から年単位まで差があり、料金ページに明記されているものと、そうでないものがあります。データの持ち出しはCSVの書き出しかAPI連携が中心で、API連携は上位プランに置かれていることがあります。「解約できるか」ではなく「解約したときに何を持ち出せるか」を先に確認するのが実務的な順序です。
契約期間の掲示は製品ごとに粒度が違う
| サービス | 契約単位の掲示 | 解約・返金の掲示 |
|---|---|---|
| Zoho CRM | 月間契約と年間契約を切り替え可能。年間契約は最大34%オフ | 料金ページに「わかりやすい価格、契約の縛りなし」と掲示。解約手続きそのものの記載は確認できなかった |
| HubSpot Sales Hub | Starterは月次での契約、Professionalは年次でのご契約と併記 | 料金ページでは確認できなかった |
| Salesforce Sales Cloud | Starter Suiteは月払いまたは年払い、それ以外は年間契約 | 料金ページでは確認できなかった |
| Mazrica Sales | 10ID分からの契約。契約期間の記載は確認できなかった | 料金ページでは確認できなかった |
| GENIEE SFA/CRM | 無料トライアルから有償へは利用申込書への署名・捺印と利用規約への同意が必要 | 料金ページとよくある質問では確認できなかった |
この表で分かるのは、契約期間を料金ページに明記している製品とそうでない製品があるということです。明記がないことは不利な条件を意味しませんが、見積もりの段階で必ず確認する項目になります。とくに年間契約が前提の製品では、期の途中で使わなくなってもライセンス料は残ります。

データを持ち出す手段は2つしかない
解約時に取り出す方法は、実質的にCSVの書き出しかAPIの利用です。どちらが使えるかは製品とプランで変わります。
| サービス | CSV | API |
|---|---|---|
| Mazrica Sales | CSVを使って既存データの一括登録・更新が可能と掲示 | API連携はGrowth以上 |
| Zoho CRM | 料金ページの機能一覧では確認できなかった | プロフェッショナルにWebhook、開発者向け機能としてAPIとSDKを掲示 |
| GENIEE SFA/CRM | 料金ページの機能一覧では確認できなかった | 外部連携の区分にSlack/Chatwork/Teams連携を掲示 |
| HubSpot Sales Hub | 価格ページでは確認できなかった | 価格ページでは確認できなかった |
| Salesforce Sales Cloud | 料金ページでは確認できなかった | 「営業データをあらゆるアプリケーションと連携」と比較表に記載 |
「取り込める」と「書き出せる」は別の話
公式サイトで掲示されているCSV機能の多くは、移行のための取り込みを説明したものです。解約時に必要なのは逆方向の書き出しで、同じ機能で両方できるとは限りません。見積もりの段階で「解約時にどの形式で何を書き出せるか」を明確に聞いておくと、あとで慌てずに済みます。
持ち出す対象を先に決める
すべてのデータを取り出す必要はありません。次に使う仕組みで必要になるものだけを選べば、作業は短く済みます。
図:解約時に持ち出す対象の優先順位
①取引先と担当者の連絡先/再構築がいちばん難しい情報です。最優先で書き出します。
②進行中の案件/金額、確度、受注予定日、次のアクション。動いている案件が止まると売上に直結します。
③直近1〜2年の活動履歴/商談や連絡の記録です。全期間を取ると量が膨らむため、期間を決めます。
④添付ファイル/提案書や見積書。CSVには含まれないことが多く、別の手段が要ります。
⑤設定の情報/項目の定義や権限の一覧。次の仕組みを設計するときの資料になります。
④の添付ファイルは見落とされやすい項目です。案件データはCSVで取れても、ファイルは1件ずつダウンロードするしかない場合があります。ファイルの件数が多いなら、解約の連絡より前に作業の時間を確保する必要があります。
解約までの進め方
図:解約を決めてから完了までの6工程
1
契約期間と通知期限を確認する。年間契約なら、いつまでに申し出れば次の期に入らないのかを契約書で確かめます。
2
書き出せる範囲を問い合わせる。CSVで出せる項目、添付ファイルの扱い、書き出し後にアカウントが使える期間を聞きます。
3
テストで1回書き出す。解約直前ではなく、余裕のある時期に一度出してみて、必要な情報が含まれているかを確認します。
4
進行中の案件を次の仕組みへ移す。過去データより先に、動いている案件を移します。
5
解約を申し出る。期限に間に合うように連絡します。書面が必要な場合は、社内の押印手続きの日数も見込みます。
6
アカウント停止後のデータの扱いを確認する。いつ削除されるのか、それまでに追加で取り出せるのかを記録に残します。
この6工程のうち、社外とのやり取りが必要なのは2と5だけです。残りは社内で進められるため、相手の返答を待つ間に手を動かせます。解約の連絡から実際の停止までに日数がある場合は、その期間を4の移行作業に充てると全体が短くなります。
3つ目のテスト書き出しがいちばん重要です。解約日の直前に初めて書き出して、必要な項目が含まれていなかったという事態を避けられます。書き出しに数時間かかる製品もあるため、時間の見積もりにもなります。
書き出したデータをどう保管するか
取り出したCSVをそのままローカルのパソコンに置いておくのは危険です。顧客の連絡先と取引履歴が入ったファイルは、扱いを誤ると情報漏えいにつながります。社内の共有フォルダに置くなら、アクセスできる人を限定したうえで保管期限も決めておきます。
次の仕組みに取り込んだあと、元のCSVをいつまで残すかも決めておく項目です。移行直後は照合のために必要ですが、半年も経てば参照されなくなります。「取り込みが完了して月次の締めを2回通したら削除する」といった条件を先に書いておくと、置き忘れを防げます。
各社ともデータの保護について掲示があります。Mazrica Salesは機密情報を暗号化して保管すること、ISO 27001(ISMS)を取得していること、通信が常に暗号化されていることを挙げています。Zoho CRMは登録時に日本のデータセンターへ登録される旨を表示しています。システムの中にある間は各社の仕組みで守られていますが、書き出した瞬間からは自社の責任になります。
移行で失われやすい情報
CSVで運べるのは、基本的に表に収まる情報だけです。次のものは形を変えて失われやすいので、移行の前に扱いを決めておきます。
図:移行のときに落ちやすい情報
コメントややり取りの履歴/記録に付いたコメントは、案件データとは別に保持されていることがあります。まとめて出せるかを確認します。
変更の履歴/誰がいつ何を変えたかの記録です。監査ログとして保持されていても、書き出せるとは限りません。
項目の選択肢/確度や案件の段階の選択肢は、移行先で同じ名前で作り直す必要があります。一覧を控えておきます。
自動化のルール/通知やワークフローの設定は移りません。何を自動化していたかを文章で残します。
権限の設計/誰が何を見られる設定だったのかを一覧にしておくと、移行先で再現しやすくなります。
このうち上の2つは、書き出しの対象になっていないことが多い情報です。必要であれば画面の写しを残すなど、別の手段を用意します。下の3つはデータではなく設計の情報なので、書き出し機能ではなく自分で記録しておく対象になります。
乗り換え先を決めてから解約する
順番として、解約を先に決めてから次を探すのは危険です。次の仕組みが決まっていないと、書き出したデータをどの形式で持っておくべきかも判断できません。取引先の粒度、案件の段階の名前、担当者の割り当て方は製品ごとに違います。
無料プランや無料トライアルを使えば、契約が重なる期間を短くできます。Zoho CRMは3ユーザーまでの無料プランがあり、HubSpot Sales Hubは2ユーザーまで無料です。Salesforce Sales Cloudのエディション比較表にはFree Suiteが0円で並んでいます。並行して動かせる期間を作れるかどうかが、移行の安全度を決めます。
並行期間の費用を抑えるもうひとつの方法は、移行先の契約開始を月初に合わせることです。並行期間の長さは、1か月を目安にすると判断がつきます。月次の締めを1回通せば、必要な項目がそろっているかが分かるためです。締めを通す前に旧システムを止めると、その月の数字が両方に分かれて集計できなくなります。
解約しないという選択肢
使われていない原因が運用にある場合、製品を替えても同じことが起きます。入力の負担が重い、記録に反応が返っていない、といった状態は、いまの製品の機能で改善できることがあります。
実際、企業データの自動入力やモバイルからの登録、通知やコメントの機能は下位プランに入っている製品が多く、契約しているのに使っていない機能が残っているケースは珍しくありません。替える前の確認についてはSFAが使われなくなる理由は2つで整理しています。
反対に、必要な機能が上位プランにしかなく、その金額が見合わないなら、乗り換えは合理的な判断です。各社の料金とプランの段差はSFA(営業支援システム)比較に一覧があります。
契約前に聞いておく5項目
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 契約期間 | 月単位か年単位か。年単位なら更新のタイミングと通知期限 |
| 途中解約 | 期中に解約した場合の残期間の扱い。返金の有無 |
| データの書き出し | 形式、対象、添付ファイルの扱い、実行できるプラン |
| アカウント停止後 | データが保持される期間と、削除されるタイミング |
| 人数の減少 | 期中にライセンス数を減らせるか。減らせない場合の扱い |
これらを契約前に聞いておくことには、もうひとつ効果があります。解約の条件をはっきり答えられる相手かどうかが分かる点です。曖昧な回答しか返ってこない場合は、運用に入ってからの問い合わせでも同じことが起きる可能性があります。
この5項目は、どれも公式サイトの料金ページだけでは埋まりませんでした。見積書に書いてもらうか、メールで回答をもらって残しておくのが確実です。担当者が替わったあとでも参照できる形にしておくと、数年後の更新時に役立ちます。
更新のタイミングで見直す
解約を検討するのは、たいてい契約更新の直前です。ところがその時期に慌てて比較を始めると、書き出しのテストも並行期間の確保もできません。更新日の3か月前に一度見直す習慣を作ると、選択肢が残ります。
見直すのは3点です。ひとつは利用状況で、ライセンスを配った人のうち実際に入力しているのが何割かを数えます。ふたつめは金額で、人数が変わっているなら契約数が実態と合っているかを確認します。3つめは機能で、上位プランに上げた理由の機能を実際に使っているかを見ます。
使っていない上位プランの機能があるなら、下位プランへ戻すという選択肢も検討の対象です。乗り換えより手間が小さく、費用の削減幅は大きいことがあります。プランを下げられるかどうか、下げた場合にデータや設定がどうなるかは、契約時に確認しておきたい項目のひとつです。
反対に、上限に当たって運用が止まっているなら、上げる判断を先送りしないほうが結果的に安く済みます。レポートの個数や自動化のルール数に上限がある製品では、上限に当たった時点で運用の工夫が限界を迎えます。
よくある質問
年間契約の途中でやめられますか
各社の料金ページには、契約期間の表記(月次・年次)はあっても、途中解約の扱いまでは掲示されていませんでした。年間契約と併記されている製品では、期中の解約について契約書または見積書で確認する必要があります。
データはどの形式で受け取れますか
公式サイトで確認できたのは、CSVによる一括登録・更新に対応している製品があることと、API連携が上位プランに置かれている製品があることです。解約時の書き出しの形式や対象については、いずれの製品も料金ページでは確認できませんでした。
解約したあとデータはいつ消えますか
今回確認した範囲では、削除までの期間を掲示している製品は見つけられませんでした。アカウントの停止と、データの削除が同時とは限らないため、契約前または解約の申し出時に確認してください。
使わないまま契約が続いているとどうなりますか
年間契約であれば、利用の有無にかかわらずライセンス料は発生します。使われていない状態が3か月以上続いているなら、乗り換えを検討する前に、いまのプランで使えていない機能がないかを確認するほうが先です。
解約の連絡は誰がすればよいですか
契約の名義になっている部署から行うのが基本です。担当者が退職している場合、管理画面の管理者権限が誰にあるかを先に確認しておく必要があります。管理者が不在のまま解約手続きに入ると、データの書き出しができないまま期限を迎えることがあります。権限の一覧を年に一度は見直しておくと、こうした事態を防げます。
書き出したデータをそのまま次のシステムに入れられますか
そのまま入ることはまずありません。項目の名前も並び順も製品ごとに違うため、列を対応づける作業が発生します。取り込み側がCSVでの一括登録に対応していれば、その仕様に合わせて列を並べ替えます。移行先を決めてから書き出すと、この並べ替えを一度で済ませられます。
並行して2つ動かす期間はどれくらい必要ですか
公式情報として基準は示されていません。月次の締めを1回通せるだけの期間を確保すると、必要な項目がそろっているかを確認できます。無料プランや無料トライアルを使えば、並行期間の費用を抑えられます。

