安否確認の訓練は、送信ボタンを押す練習ではありません。本番で返ってこない理由を、平時のうちに見つけて潰す作業です。だから、訓練で見るのは操作の手順ではなく数字になります。年間の時期をどう決めるか、何を測るか、数字が悪かったときにどこを直すかを、順に整理します。
この記事で分かること
- 訓練の時期は、NTTが公開している171の体験利用提供日に重ねると決めやすくなります。
- 測る数字は4つ。配信エラー率、未登録率、1時間回答率、24時間回答率です。
- どの数字が低いかで、直す場所が名簿・周知・経路・設問のどれかに分かれます。
- 回数を増やしても回答率は上がりません。慣れが進むだけです。
- 未回答者への再送は、自動と手動を分けて設計します。
訓練で確かめるのは「返ってくるか」だけ
安否確認システムを入れた組織が最初にやる訓練は、たいてい「全員に送ってみる」です。送信は成功し、管理画面には配信件数が並びます。ここで終わると、訓練の意味はほとんどありません。
本番で困るのは、送れないことではなく返ってこないことだからです。全員の安否が分からないと、出社可否も事業再開の可否も判断できません。返ってこない原因は、システムの外側にあります。登録先が古い、通知に気づかない、回答が面倒でやめた、そもそも登録していない。訓練は、この4つのどれが起きているかを切り分ける作業です。
内閣府の防災情報ページは、事業継続計画(BCP)で実施する対策の例として「安否確認の迅速化」を挙げています。迅速化の対象は送信ではなく、全員分の状況が確定するまでの時間です。訓練の目標も、そこに合わせます。
訓練の時期を年間で固定する
訓練が続かない最大の理由は、日程が毎年決まっていないことです。繁忙期を避けているうちに年度末になり、結局やらない。これを防ぐには、外部にある固定の日付に乗せるのが確実です。

NTT東日本が公開している災害用伝言ダイヤル(171)の体験利用は、提供日が固定されています。毎月1日と15日の00:00〜24:00、正月三が日、防災週間(8月30日9:00〜9月5日17:00)、防災とボランティア週間(1月15日9:00〜1月21日17:00)です。

| 時期 | 171の体験利用 | 合わせる訓練の規模 | ねらい |
|---|---|---|---|
| 毎月1日・15日 | 00:00〜24:00 | 部署単位・小規模 | 手順の確認、新入社員の登録確認 |
| 1月15日〜21日 | 9:00〜17:00 | 拠点単位 | 年度後半の点検、名簿の更新確認 |
| 8月30日〜9月5日 | 9:00〜17:00 | 全社 | 本番想定の全社訓練、回答率の測定 |
| 正月三が日 | 1月1日00:00〜1月3日24:00 | 個人(任意) | 従業員が家族と手順を確認する機会 |
171の体験利用には提供条件も公開されています。伝言の録音時間は30秒、保存期間は体験利用期間の終了まで、蓄積数は電話番号あたり20伝言です。安否確認システムの配信と171の体験利用を同じ日に設定すれば、従業員は2つの手段を1回の訓練で覚えられます。システムが使えない状況を想定するなら、この組み合わせに意味が出ます。
導入前で製品をまだ決めていない場合も、無料期間を訓練の日程に重ねられます。30日間の無料期間を設けている安否確認サービス2の料金と機能のように、試用できる長さは製品によって違います。
測る数字は4つに絞る
訓練のあとに集計する数字は、多すぎると誰も見なくなります。次の4つで足ります。

| 指標 | 計算 | 低い(高い)ときに疑うこと | 直す場所 |
|---|---|---|---|
| 配信エラー率 | エラー件数÷配信数 | 登録されたメールアドレスが古い、退職者が残っている | 名簿(人事データとの突合) |
| 未登録率 | 未登録者数÷対象者数 | アプリもメールも登録していない人がいる | 周知(部署別に督促) |
| 1時間回答率 | 1時間以内の回答数÷配信数 | 通知に気づいていない | 受信経路(アプリ、通知音) |
| 24時間回答率 | 24時間以内の回答数÷配信数 | 回答が面倒で後回しにされた | 設問(数と形式) |
4つのうち、最初の2つはシステムではなく自社の管理状態を示します。配信エラー率が高い状態でどの製品に乗り換えても、結果は変わりません。3つ目と4つ目は、製品の仕様と設定で動かせる部分です。
1回の訓練の絶対値に一喜一憂しないでください。意味があるのは前回との差です。回答率70%が良いか悪いかは、組織の規模や業種によって違います。前回65%から70%に上がったなら、その間に打った手が効いたということです。
回答率が上がらない典型的な原因
通知が「その他の通知」に埋もれている
メールで受信している場合、安否確認のメールは日常の業務メールに埋もれます。受信箱を1日に何度も開く人なら気づきますが、現場作業や外勤の従業員は違います。専用アプリの通知音を通常の着信音と変えられる製品では、その設定が効きます。
回答のためにログインが必要になっている
受信したメールのURLを開いて、IDとパスワードを入力してから回答する形式では、そこで止まる人が出ます。パスワードを覚えていないからです。災害時に、記憶していないパスワードを思い出せる前提を置かないのが安全です。
設問が多く、途中でやめられている
24時間回答率だけが低い場合、これを疑います。開いて回答を始めたのに、質問が続いて離脱している状態です。管理画面で「開封したが未回答」の人数が分かる製品なら、その数を見れば裏が取れます。
回答率を上げるために訓練の回数を増やすのは逆効果になりやすい対処です。安否確認が頻繁に飛ぶ組織では、従業員が「また訓練か」と判断して後回しにします。増やすべきは回数ではなく、1回あたりの設計の質です。
未回答者への再送をどう設計するか
本番では、時間内に返ってこない人が必ず出ます。その人たちへどう再送するかは、設定と運用の両方で決めておきます。
| 段階 | タイミング | 手段 | 決めておくこと |
|---|---|---|---|
| 1回目の再送 | 初回配信から30分〜1時間後 | システムの自動再送 | 間隔と回数を設定できるか |
| 2回目の再送 | 2〜3時間後 | システムの自動再送 | 夜間に何度も鳴らさない設定 |
| 部署への引き渡し | 半日後 | 未回答者リストを部門長へ | 誰がリストを出すか |
| 個別連絡 | それ以降 | 電話、近隣社員による確認 | 安否不明として扱う基準 |
| 代理登録 | 連絡が取れた時点 | 管理者による代理回答 | 代理回答の権限を誰に渡すか |
自動再送の間隔と回数を選べる製品では、この1段目と2段目を設定で済ませられます。オクレンジャーのよくある質問では、未読者への自動再送について再送信する時間の間隔と回数を選べると説明されています。自動でどこまで追いかけるかを決めておけば、担当者が手を動かすのは半日後からで済みます。
代理回答の機能も、本番では必ず使います。スマートフォンを持たない従業員や、被災して端末を失った従業員の安否は、誰かが代わりに登録するしかないためです。代理回答に対応しているかどうかは製品によって差があります。各社の対応は安否確認システム比較の機能表で並べています。
訓練の設問は本番と同じにする
訓練用に設問を短くすると、本番の回答率を測れません。訓練で測りたいのは「この設問に、この人数が、この時間で答えられるか」だからです。設問を変えると、その数字が使えなくなります。
| 項目 | 本番と同じにする | 訓練用に変える |
|---|---|---|
| 設問の内容と数 | 同じにする | ― |
| 回答の選択肢 | 同じにする | ― |
| 配信先の範囲 | 全社訓練では同じにする | 部署単位の訓練では絞る |
| 件名・冒頭の文言 | ― | 「これは訓練です」を必ず入れる |
| 配信の時間帯 | 2回目以降は夜間・休日も試す | 初回は業務時間中 |
件名に訓練であることを明示するのは必須です。入れ忘れると、従業員が実際の災害と誤認し、家族へ連絡を始めるなどの混乱が起きます。本文の冒頭ではなく、件名の先頭に入れるのが確実です。通知の一覧には件名しか表示されないためです。
配信の時間帯は、初回は業務時間中が向いています。届かなかった人にその日のうちに確認できるからです。名簿の精度が上がってから、夜間や休日の配信を試します。実際の地震は勤務時間に起きるとは限りません。
集計結果を誰に、どの形で渡すか
訓練のあと、集計結果を担当者だけが見て終わる組織は少なくありません。それでは改善が回りません。数字を渡す相手と形式を、最初から決めておきます。
| 渡す相手 | 渡す内容 | 期待する動き |
|---|---|---|
| 部門長 | 自部署の未登録者数と未回答者数 | 部署内での登録の督促 |
| 人事・総務 | 配信エラーになった氏名の一覧 | 人事データとの突合、名簿の更新 |
| 経営層 | 全社の回答率と、前回からの差 | 継続の判断、予算の確保 |
| 災害対策本部 | 回答が確定するまでの所要時間 | 初動手順の見直し |
部門長に渡す数字は、個人名ではなく人数から始めます。「あなたの部署に未登録が7名います」のほうが、名指しより動きます。それでも改善しない部署にだけ、個人名の一覧を出します。
集計結果をグラフやExcelファイルとして書き出せる製品では、この配布が楽になります。転記が必要な項目が多いほど、担当者の負担で継続が止まります。無料期間中に、集計画面をそのまま報告に使えるかを確かめておくと、この負担を先に見積もれます。
訓練当日の担当者の動き
訓練は、送信して終わりではありません。当日の担当者が何を、どの順で見るかを決めておくと、集計までが1日で終わります。全社訓練を想定した流れです。
| 時刻の目安 | やること | 見る画面・数字 |
|---|---|---|
| 前日まで | 対象者数を確定し、文面を登録する | ユーザー一覧、テンプレート |
| 配信直後 | 配信件数とエラー件数を控える | 配信結果の画面 |
| 30分後 | 初動の回答状況を確認する | 回答数、既読数 |
| 1時間後 | 1時間回答率を記録する | 回答数÷配信数 |
| 半日後 | 未回答者を部署別に書き出す | 未回答者の一覧 |
| 翌日 | 24時間回答率を記録し、4指標を前回と並べる | 集計画面、前回の記録 |
| 1週間以内 | 部門長と人事へ数字を渡し、手順書を更新する | 部署別の集計、手順書 |
この流れで負担が集中するのは、半日後の「未回答者を部署別に書き出す」工程です。集計画面から部署ごとに絞り込めるか、書き出したファイルがそのまま配れる形かで、ここにかかる時間が変わります。人数の多い組織ほど差が出ます。
また、配信直後のエラー件数は、その場で控えておく価値があります。あとから画面を開くと、再送や代理回答の結果が混ざって初回の数字が分からなくなる製品があるためです。訓練の記録は、数字が動く前に取るのが原則です。
担当者を1人にしないことも、当日の設計に含めます。配信の操作をする人と、回答状況を見て記録する人を分けると、片方が別の業務に呼ばれても訓練が止まりません。実際の災害時には、送信担当者自身が被災している可能性があります。訓練は、その体制のまま本番で動けるかどうかを確かめる場でもあります。
訓練の記録として残すもの
訓練は毎回記録します。記録がないと、前回との差が出せず、改善したかどうかが分かりません。残す項目は多くありません。
| 記録項目 | 形式 | 次回に使う場面 |
|---|---|---|
| 実施日と時間帯 | 日付・開始時刻 | 時間帯による回答率の差を見る |
| 対象者数と配信数 | 人数 | 母数の変化を把握する |
| 4つの指標 | 百分率 | 前回との差を出す |
| 回答が確定するまでの時間 | 時間 | 初動手順の見直し |
| 気づいた問題 | 箇条書き | 次回までの改善項目 |
| 手順書の更新有無 | 有無と更新日 | 担当者交代時の引き継ぎ |
最後の行を入れておくのがこつです。総務や人事の担当者は数年で異動するため、訓練の記録と手順書がひとそろいで残っていないと、次の担当者はゼロから始めることになります。訓練のたびに手順書を開く運用にしておけば、更新が止まりません。
製品の機能で訓練の手数がどれだけ変わるか
訓練の設計そのものは製品を選びませんが、かかる手数は仕様によって変わります。公開情報の範囲で、差が出やすい機能を並べます。
| 機能 | あると変わること | なければどうするか |
|---|---|---|
| 未読者への自動再送 | 1段目・2段目の再送が自動で終わる | 未回答者を抽出して手動で再送する |
| 登録状況の一覧 | 未登録者を部署別に出せる | 配信エラーから逆算して推定する |
| 回答結果の書き出し | 報告資料への転記が減る | 画面を見ながら手で集計する |
| 配信の予約 | 訓練日時を先に設定できる | 当日その時刻に担当者が操作する |
| テンプレート | 訓練用の文面を毎回使い回せる | 毎回入力し直す |
| 代理回答 | 連絡が取れた人を管理者が登録できる | 未回答のまま別の記録に残す |
この表の機能は、いずれも派手さがないため製品選定の比較表では目立ちません。しかし年に数回の訓練を10年続ける前提で考えると、手数の差はそのまま継続できるかどうかの差になります。導入前の無料期間に、実際に1回送って集計まで通してみるのが確実な確認方法です。
訓練を重ねても数字が動かず、原因が製品側の仕様にあると分かった場合は、入れ替えの検討に入ります。契約条件の確認から移行までの順序は安否確認システムの乗り換えと解約にまとめています。
導入時の設定そのものについては、名簿の列やグループの軸をどの順で決めるかを安否確認システムの導入手順と初期設定にまとめています。
訓練を重ねると、数字そのものより「どこが毎回引っかかるか」が見えてきます。特定の拠点だけ未登録率が下がらない、夜勤のある部署だけ回答が遅いといった偏りです。全社平均をならして見るより、偏りのある集団を1つずつ潰していくほうが、全体の回答率は確実に上がります。訓練の目的は満点を取ることではなく、返ってこない人を毎回少しずつ減らしていくことにあります。
よくある質問
訓練は年に何回やればよいですか。
全社規模は年1回、部署単位の小規模な確認を年数回という組み合わせが現実的です。回数を増やすほど従業員が通知に慣れるため、多ければよいというものではありません。
回答率は何%あれば合格ですか。
一律の基準はありません。組織の規模、業種、受信経路によって水準が違うためです。判断材料になるのは前回との差と、未回答者が誰かを特定できているかどうかです。
夜間や休日に訓練を送ってもよいですか。
名簿の精度が上がってからなら有効です。ただし従業員へ事前に周知し、件名に訓練であることを明示してください。何の予告もなく深夜に配信すると、訓練そのものへの協力が得られなくなります。
171の体験利用と安否確認システムの訓練は、どちらを先にやるべきですか。
同じ日に並べて、システムの配信を先に行う方法があります。システムで回答した人が、そのあと171でも録音してみる流れにすると、両方の手順を1回で覚えられます。
未回答者をいつから「安否不明」として扱いますか。
組織ごとに基準を決めておく項目です。再送、部署への引き渡し、個別連絡という段階を先に決めておき、どの段階を過ぎたら不明として扱うかを手順書に書いておきます。
参照した一次情報(2026年9月14日確認)
- NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内」 https://www.ntt-east.co.jp/saigai/voice171s/howto.html
- NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)」 https://www.ntt-east.co.jp/saigai/voice171/
- 内閣府 防災情報のページ「知る・計画する」 https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/sk.html
- オクレンジャー「よくある質問」 https://www.ocrenger.jp/faq/

