採用管理システムの乗り換えを止めるのは、たいてい機能の差ではありません。いま使っている製品の契約が残っていることです。新しい契約と古い契約が重なる期間は、同じ業務に二重で払うことになります。この重複をどう扱うかは製品ごとに方針が違い、公式ページに条件まで書いている例もあります。契約・データ・申し出のタイミングという3つの観点から、乗り換えの段取りを組み立てます。
この記事の要点
- 乗り換えの実質的な障害は、残っている契約期間の二重払いです。
- 残存契約期間を無料期間に振り替える仕組みを公開している製品があります(最大12か月)。
- その対象判定は法人番号を基準にしており、社名変更だけでは新規扱いになりません。
- 適用には申し出のタイミングが条件になります。契約書を締結してからでは遅い場合があります。
- データは出せても、整形が有償になることがあります。
- 解約は「いつまでに言うか」が本体です。日割りされない製品もあります。
乗り換えを止めるのは機能の差ではない
採用管理システムを変えたい理由は、費用が合わない、現場が使わない、必要な媒体と連携できない、といったところに集まります。ところが実際に動き出すと、別の壁に当たります。いま使っている製品が年単位の契約で、残り何か月かが消化できていないという状況です。
この重複期間は、金額にすると小さくありません。年額ベースの製品で残り8か月なら、新旧2本分の支払いが8か月続きます。社内で承認を取るとき、「乗り換えたほうが安い」という説明が、この重複期間のせいで成り立たなくなることがあります。
| 要因 | 何が起きるか | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 契約の残存期間 | 新旧の契約が重なり、二重に支払う | 現在の契約書・注文書・請求書の契約終了日 |
| 解約の申し出期限 | 期限を過ぎると1期間ぶん延長される | 現在使っている製品の解約条件 |
| データの持ち出し | 候補者情報・評価・メッセージ履歴のどこまで出せるかが違う | 書き出し形式(CSV・エクセル・API)の記載 |
| データの整形 | 出した形式がそのままでは取り込めず、加工が必要になる | 移行支援が無料サポートか有料サポートか |
| 新契約の拘束 | 乗り換え先でも最低契約期間が発生する | 新しい製品の契約期間と解約条件 |
残存契約期間を無料期間に振り替えられる場合がある
この二重払いに対して、乗り換え先が無料期間を提供する仕組みがあります。HERP Hireの「乗り換えユーザー限定プラン」では、現在利用中のATSの残存契約期間に応じて最大12か月間無料が適用されると公開されています。無料期間中も、契約プランに含まれる機能・オプションを機能制限なく利用できるとされています。
残存契約期間の算定方法も明示されています。提出書類に記載の契約終了日を基準とし、月単位で計算(端数切り捨て)、上限は12か月です。必要書類は契約書・注文書・請求書などで、スクリーンショットのみの場合は追加確認を求める場合がある、と注記されています。無料期間の起算日は、新しい製品の利用開始日(管理画面へのアクセスが可能となった日)です。
注意したいのは、この無料期間が単独では成立しないことです。公式ページには「無料期間のみの利用はできません」と明記され、契約は「無料期間+有料期間12ヶ月以上」で構成されます。契約締結時点で有料期間12か月以上の支払義務が発生し、無料期間中の解約はできません。無料期間が長いほど、総契約期間も長くなる計算です。
対象の判定は法人番号で行われる

この種の限定プランは、対象かどうかの判定が細かく決まっています。基本の条件は、現在その製品以外のATSを利用していることと、その製品を初めて有料契約することの2つです。複数のATSを使っている場合でも、乗り換え先以外のATS契約を解約または契約終了予定であれば対象になるとされています。
| 状況 | 扱い | 判定の基準 |
|---|---|---|
| 過去に無料プランのみ利用していた | 対象 | 提供側の記録 |
| 過去に有料契約したことがある(解約後の再契約を含む) | 対象外 | 提供側の記録 |
| 現在その製品を有料契約中 | 対象外 | 契約状況 |
| 社名変更のみ | 対象外 | 法人番号が同一 |
| 分社化等で新法人化 | 対象 | 新たな法人番号が発行されている |
| 親会社が契約中、子会社が他ATSから乗り換え | 対象 | 子会社が単体で契約する場合に限る |
| 親会社契約を流用し、子会社単体で契約しない | 対象外 | 契約主体 |
| 代理店・パートナー経由の契約 | 対象 | 直接契約と同じ扱い |
社名変更と分社化を書き分けている点が、この条件の肝です。法人番号が同じなら同一の法人とみなし、新しい番号が発行されていれば別の法人として扱います。グループ会社で複数の事業会社がある場合、どの法人名義で契約するかによって適用の可否が変わります。適用は1法人(1法人番号)につき1回までです。
申し出のタイミングが条件になっている
見落としやすいのが、申し出の期限です。公式ページには「初回商談時点で本プラン利用の旨を申し出ていることが必要です」と書かれています。初回商談時の申告が望ましいとしたうえで、契約書の締結までに申し出が完了していれば対象になるとされ、契約書締結後の申し出は原則として対象外です。申し出の確認は提供側の記録を基準にすると明記されています。
つまり、先に契約を済ませてから「実は他社の契約が残っていて」と相談しても、遡って適用される保証はありません。問い合わせの最初の連絡に、現在使っている製品名と契約終了日を書いておくのが確実です。やり取りがメールで残っていれば、記録としても機能します。
移行するデータの棚卸し
契約の話が片付いたら、次はデータです。採用管理システムに溜まっているのは、候補者の基本情報だけではありません。選考のステータス、面接官の評価コメント、応募者とのメッセージ履歴、求人原稿、エージェントとのやり取りが含まれます。このうちどこまで持ち出せるかは、製品ごとに違います。
| サービス | 書き出し形式 | 公開されている範囲 |
|---|---|---|
| Airワーク 採用管理 | CSV | 「応募者一覧のダウンロード」として機能一覧に記載 |
| engage | エクセル | 「応募者情報のダウンロード」として機能一覧に記載 |
| HERP Hire | CSV・API | 自動取込に非対応の媒体もCSV一括取り込み・API連携が可能と記載 |
| HRMOS採用 | レポート機能 | 求人別・経路別などのレポートを標準搭載。生データの書き出し形式は公開されていない |
| ジョブカン採用管理 | 公式サイトに記載 | 導入の流れに他システムからの移行の記載はない |
この表で分かるのは、「書き出せる」と書いてある製品でも、何を書き出せるかまでは公開されていないということです。候補者の氏名と連絡先だけ出せても、評価コメントや面接の履歴が出せなければ、移行後にゼロから積み直すことになります。契約前に、サンプルのCSVを見せてもらうのが確実です。
出せるデータと、取り込めるデータは別
データを出せても、そのまま新しい製品へ取り込めるとは限りません。列の名前も並び順も製品ごとに違うためです。HERP Hireの乗り換え案内では、顧客側の作業は「ご利用中のサービスからCSVを出力するだけ」としたうえで、「CSV整形は有償で代行可能です」と注記されています。
サポートの区分も公開されています。無料サポートの例は、問い合わせ対応、カスタマーサクセスとのミーティング、チャット・メールでの質問対応。有料サポートの例は、CSVデータの整形・移行支援と個別カスタマイズ対応です。移行作業のどこからが費用の対象なのかが、あらかじめ線引きされています。
図2 移行で見積もりに乗りやすい作業
無料の範囲になりやすい
問い合わせ対応、担当者との打ち合わせ、操作方法の質問、初期設定の相談。
有料になりやすい
CSVの整形と移行作業そのもの、個別のカスタマイズ、社内向けの説明会や資料作成。
見積もりに現れにくい
自社側の棚卸しと確認の工数。どのデータを残すかを決める作業は、外に出せません。
解約は「いつまでに言うか」が本体
乗り換え先が決まったら、いま使っている製品の解約に進みます。ここで効いてくるのが申し出の期限です。ジョブカン採用管理では、メールまたはチャットで連絡したあと、送付される解約申し込み書を解約希望月の前月までに送る手順が公開されています。解約月の利用料金は日割りされず満額請求されるとも書かれています。
この「前月まで」という期限は、月末に気づいても間に合わないことを意味します。乗り換え先の利用開始日から逆算して、解約の申し出をいつ出すかをスケジュールに入れておく必要があります。書面の送付が必要な場合は、郵送の日数も見込んでおきます。
一方、解約の条件を公開していない製品もあります。HRMOS採用は契約期間12カ月とだけ公開しており、更新が自動かどうか、申し出の期限がいつかは書かれていません。契約書を交わす前に文面で確認しておく項目です。
乗り換えの引き金は、自社の都合だけとは限らない
検討のきっかけが社内にあるとは限りません。使っている製品の連携先が終了して、これまで届いていた求職者に届かなくなる、という形で外から来ることがあります。
実例として、engageでは2026年に運営会社が株式会社エンゲージへ変わり、同時に外部サイトへの求人転載が順次終了しました。公式告知によれば、求人サイト「Indeed」へのengage求人転載は2026年6月11日に終了、エン転職の企業管理画面とのアカウント連携(原稿コピー機能などを含む)は2026年9月末で終了しています。同じ製品を使い続けていても、求人が載る場所が変わったことになります。
この種の変更は、料金や機能の比較表には現れません。公式のお知らせページやサポートセンターの告知にだけ出ます。契約更新の時期が近づいたら、使っている製品の告知ページを一度さかのぼって読み、前提が変わっていないかを確かめておくと、更新してから気づく事態を避けられます。
乗り換えの段取り
図3 順番を間違えると損をする工程
- ① 現契約の終了日を確認する 契約書・注文書・請求書のいずれかで、契約終了日と解約の申し出期限を押さえます。無料期間の算定にも使う書類です。
- ② 出せるデータの範囲を確認する 候補者情報だけでなく、評価・メッセージ履歴・求人原稿がどこまで書き出せるかを、いまの製品のサポートに確認します。
- ③ 乗り換え先の初回商談で申し出る 限定プランがある場合、初回商談の時点で利用の意思を伝えます。契約書締結後では原則として対象外です。
- ④ 整形の費用を見積もりに入れる CSVの整形が有償になる製品があります。本体の利用料とは別の見積もりが必要です。
- ⑤ 新契約の拘束期間を確認する 無料期間が付く場合、総契約期間は「無料期間+有料期間」になります。社内で許容できる長さを先に決めます。
- ⑥ 解約の申し出を出す 新しい製品の利用開始日から逆算し、前月までの期限に間に合うよう手続きします。
図4 契約前に手元にそろえる資料
- 現在使っている製品の契約書(または注文書・請求書)。契約終了日が読み取れるもの
- 解約の条件が書かれた書面またはヘルプページの該当箇所
- 移行したいデータの一覧と件数(候補者数、求人数、評価件数)
- 自社の法人番号。グループ会社がある場合は契約する法人の番号
- 過去1年の月別の応募数。乗り換え先のプラン選定に使います
5サービスの契約期間と解約の公開状況を並べて見たい場合は、採用管理システム比較5選の表にまとめています。費用の型ごとの違いは採用管理システムの料金体系で整理しました。
あわせて読む
乗り換え先を決めるとき、社内の審査で止まりやすいのは次の論点です。
| 記事 | 扱っている内容 |
|---|---|
| セキュリティと権限設計 | 認証の適用範囲、SSO、解約後のデータの扱い |
よくある質問
- 契約が残っていても乗り換えられますか。
- 乗り換え自体は可能です。問題は重複期間の支払いで、これに対して無料期間を用意している製品があります。HERP Hireの乗り換えユーザー限定プランでは、残存契約期間に応じて最大12か月無料が適用されると公開されています。
- 無料期間はどうやって決まりますか。
- 提出書類に記載の契約終了日を基準に、月単位で計算されます(端数切り捨て)。上限は12か月で、残存期間が12か月を超えていても無料期間は12か月までです。
- 無料期間だけ使って解約できますか。
- HERP Hireの限定プランではできません。契約は「無料期間+有料期間12ヶ月以上」で構成され、契約締結時点で有料期間の支払義務が発生し、無料期間中の解約はできないと明記されています。
- 社名が変わった場合は新規扱いになりますか。
- なりません。社名変更のみで法人番号が同一の場合は対象外と書かれています。分社化等で新たな法人番号が発行された場合は対象になります。
- 契約してから限定プランを申し出てもよいですか。
- 契約書締結後の申し出は、原則として対象外とされています。初回商談時点での申し出が条件で、契約書の締結までに申し出が完了していれば対象になります。
- データはどこまで移行できますか。
- 製品によります。書き出しの形式はCSV、エクセル、APIなどが公開されていますが、評価コメントやメッセージ履歴まで含まれるかは公開情報からは判断できません。契約前にサンプルを確認するのが確実です。
- 移行作業は無料ですか。
- サポートの区分によります。HERP Hireでは、問い合わせ対応や打ち合わせは無料サポート、CSVデータの整形・移行支援と個別カスタマイズ対応は有料サポートと区分されています。
- 解約の申し出はいつまでに出せばよいですか。
- 製品によって違います。ジョブカン採用管理では、解約希望月の前月までに解約申し込み書を送る手順が公開されており、解約月の利用料金は日割りされません。条件を公開していない製品もあるため、契約書で確認してください。
- 乗り換え先でも最低契約期間がありますか。
- あることが多いです。HRMOS採用は契約期間12カ月、HERP Hireの乗り換え限定プランは有料期間12カ月以上が必須と公開されています。無料期間が付く場合、総契約期間はその分だけ長くなります。
この記事が参照した一次情報
- HERP Hire「ATS乗り換えをご検討の方へ」(限定プランの対象企業・特典・契約期間・必要書類・サポートの区分)
https://lp.herp.cloud/ats_replace - HERP Hire「よくある質問」(移行の進め方、CSV・API取り込み、重複期間の扱い)
https://lp.herp.cloud/faq - ジョブカン採用管理 公式サイト(解約の手続きと日割りの扱い)
https://ats.jobcan.ne.jp/ - HRMOS採用「料金プラン」(契約期間12カ月の記載)
https://hrmos.co/ats/price/ - Airワーク 採用管理「機能一覧ページ」/engage「機能」(応募者データの書き出し形式)
https://airregi.jp/work/recruitment/function https://en-gage.net/function/
乗り換えの条件・必要書類・サポートの区分は、2026年10月3日に各社の公式サイトで確認した記載にもとづきます。限定プランは予告なく変更・終了する場合があると公式に注記されています。移行できるデータの詳細な範囲は公開されていないため、この記事では推定せず、確認すべき項目として示しました。

