「バーチャルオフィスの住所で法人登記はできるのか」という問いには、2つの答えが要ります。会社法の側から見れば、本店所在地に事務所の実体を求める規定はありません。一方で、サービス提供会社の規約には使ってよい用途と使えない用途が細かく定められており、許認可の側には事務所の実体を審査するものがあります。登記できることと、その住所で事業を回せることは別の問題です。2026年10月17日に、e-Gov法令検索の会社法と、GMOオフィスサポート・DMMバーチャルオフィス・レゾナンス・Karigo・ナレッジソサエティの規約と公式ページで条件を確かめました。
結論(2026年10月17日時点で確認)
- 会社法第4条:「会社の住所は、その本店の所在地にあるものとする」。実体の要件は書かれていない
- 会社法第27条:株式会社の定款の絶対的記載事項に「本店の所在地」が入る
- 会社法第911条第3項第3号:設立の登記事項に「本店及び支店の所在場所」が入る
- 法律が止めているのではなく、規約と許認可が止める。最安プランで登記を禁じている会社がある
- 定款・株主総会議事録・株主名簿は本店に備え置く義務がある(会社法第31条・第318条・第125条)
- 本店を移したら2週間以内に変更の登記(会社法第915条第1項)。怠ると100万円以下の過料(第976条第1号)
会社法は本店所在地に「実体」を求めていない
まず条文を確認します。会社法第4条は「会社の住所は、その本店の所在地にあるものとする」と定めるだけで、本店に机や従業員があることを条件にしていません。第27条は株式会社の定款に記載しなければならない事項として、目的・商号・本店の所在地・設立に際して出資される財産の価額またはその最低額・発起人の氏名または名称および住所の5つを挙げています。
登記のほうも同じです。第911条第3項は設立の登記で登記すべき事項を列挙し、第3号に「本店及び支店の所在場所」が入っています。第49条は「株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する」と定めています。持分会社も第579条で同じ構造です。
つまり、バーチャルオフィスの住所を本店所在地として登記すること自体を禁じる規定は会社法にありません。実際、今回調べた5社はいずれも、基本プランまたは上位プランで法人登記に使えると明記しています。

登記できることと、使ってよいことは別
条文の側に制限がない代わりに、制限はサービス提供会社の規約側にあります。各社は犯罪収益移転防止法への対応や、過去のトラブルを踏まえて、使える用途を限定しています。ここを読まずに契約すると、登記はできても事業で使えない、という事態になります。
Karigoの法人様ご利用上の注意には、本店登記の意味そのものについての説明もあります。「商業登記には、公信力があります。ですから、第三者は本店として登記された住所に対して意思表示等を行えば、御社に対して意思表示等を行ったことになります。本店機能が実際には別の場所にあったとしても、御社がこれを第三者に対抗することはできません」。会社法第908条第1項が定める登記の効力を、利用者向けに言い換えたものです。

5社の規約で、登記と用途はどう決められているか
| サービス | 法人登記 | 公式ページで明示されている制限 |
|---|---|---|
| GMOオフィスサポート | 上位プランで可能 | 最安の転送なし660円プランは「法人登記・郵便物受取不可」と明記 |
| DMMバーチャルオフィス | ベーシックプランで可能 | ミニマムプラン660円は料金ページに法人登記と表示される一方、FAQの利用可能範囲では「法人の本店住所としての利用は不可」 |
| レゾナンス | バーチャルオフィスコースで可能 | ネットショップ住所貸しプラン550円は、事業内容がネットショップ(物販)以外の人は申し込めない |
| Karigo | 全店舗で可能 | 規約第7条で投資・融資など金融に係わる事業を禁止。住民票・パスポート不可。製造元としての表記は不可 |
| ナレッジソサエティ | 基本料金で可能 | バーチャルオフィスメンバーはロッカー利用不可。会議室料金は上位会員の約2倍 |
とくに注意したいのは最安プランです。GMOオフィスサポートの660円プランは登記そのものが不可と書かれており、DMMバーチャルオフィスの660円プランは料金ページとFAQで説明が食い違っています。「月額660円から法人登記できる」という言い方は、どの会社でも条件付きだと考えたほうが安全です。
許認可は「事務所・営業所の実体」を見る
登記と並んで問題になるのが、業種ごとの許認可です。ここは会社法ではなく、それぞれの業法と審査基準の世界になります。各社も、この点は自社では判断できないという立場を取っています。
許認可について各社が公式に書いていること
共通しているのは、業法側の判断を代行しないという姿勢です。許認可が要る事業なら、契約前に所管の窓口へ、その住所で申請できるかを確認するのが最短です。バーチャルオフィス側の「原則可能」は、業法の審査を通す保証ではありません。
確認の順番を間違えない。先に契約してから許認可の可否を調べると、使えない住所に登記した状態から戻すことになる
戻すのにもお金がかかる。本店移転登記の費用に加え、Karigoは契約終了後も住所が残っていると1日1,000円、レゾナンスは更新日の1か月前を過ぎた解約に3,300円を定めている
許認可が要る事業は、所管窓口への確認が先。その回答を踏まえてプランを選ぶ
本店登記だけでなく、支店登記や営業所利用もできる
バーチャルオフィスの使い道は本店登記だけではありません。Karigoのよくある質問には「提供住所で本店の移転登記をすることは可能ですか?」「提供住所を営業所の住所に使用可能ですか?」の両方に「可能でございます」と答えがあり、申し込み時に法人利用区分を選び、利用目的を移転登記または営業所利用にするよう案内されています。
ただし必要書類が変わります。Karigoの場合、新設法人利用と本店移転登記利用は代表者の身分証明書1点で足りますが、支店登記利用・営業所利用では法人の資料として登記簿謄本(発行から2か月以内)と、株式会社の場合は株主名簿の2点が加わります。すでに事業を回している法人が支店を置くケースのほうが、提出物は多くなる形です。
DMMバーチャルオフィスは順番が決まっています。これから会社を設立する場合は、まず代表者になる人が個人で申し込み、貸出住所の開示を受けて法人登記に使い、設立完了後に会員サイトから法人契約へ切り替える流れです。レゾナンスも同じく、法人設立前は個人契約で申し込み、設立後に無料で法人契約へ切り替えられると案内しています。
本人確認は犯罪収益移転防止法に基づいて行われる
住所を貸すサービスである以上、本人確認は厳格です。レゾナンスのお申し込みのご案内には「犯罪収益移転防止法に基づき契約を行います」と明記され、顔写真付きで現住所記載の身分証1点、または印鑑証明書・住民票などから2点の提出が求められます。法人契約では発行から6か月以内の登記簿謄本が加わり、オンライン上の電子証明や定款は認められません。
Karigoの利用規約第5条も、申し込み後にオンラインで完結する本人確認(eKYC)または指定の方法で本人確認を行い、入金を確認してサービス利用開始メールを送った時点で契約が成立すると定めています。同社は個人情報について「犯罪収益移転防止法に基づきお客様の個人情報を含む各種ご利用情報は、解約日から7年間保管が義務付けられております」とも書いています。
この本人確認は、郵便物の受け取りにも影響します。レゾナンスの郵便物転送業務のご案内には「登録のない法人名宛の郵便物は犯罪収益移転防止法の指導によりお渡しができかねます」とあり、法人を設立したり屋号を登録したりした場合は申請が必要とされています。法人格を省略せずに記入するよう求める注記も添えられています。
定款や議事録は本店に備え置く義務がある
見落とされやすいのが、会社関係書類の備置義務です。会社法は、一定の書類を本店に備え置き、請求があれば閲覧させることを求めています。
| 書類 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 定款 | 第31条第1項 | その本店及び支店に備え置かなければならない |
| 株主総会議事録 | 第318条第2項 | 株主総会の日から10年間、本店に備え置く(写しは支店に5年間) |
| 株主名簿 | 第125条第1項 | 本店(株主名簿管理人がある場合はその営業所)に備え置く |
株主および債権者は、営業時間内であればいつでも閲覧や謄写を請求できます(第31条第2項、第318条第4項、第125条第2項)。本店がバーチャルオフィスの場合、この請求にどう応じるかを決めておく必要があります。
Karigoはこの点について運用を公開しており、本店登記をする利用者の書類は厳重に保管するので、備置が必要な書類を作成したら運営者宛に提供してほしいとしています。閲覧請求があった場合は、請求者に来所時刻を指定(10:00〜17:00)し、利用者の立会いのもとで閲覧手続きを行う、という流れです。他社でこの運用を明記しているページは、今回確認した範囲では見つかりませんでした。
本店を移したら2週間以内に登記する
バーチャルオフィスへ本店を移す場合も、そこから出る場合も、登記の期限は同じです。会社法第915条第1項は「会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない」と定めています。
管轄が変わる移転には第916条が適用され、「他の登記所の管轄区域内に移転したときは、二週間以内に、旧所在地においては移転の登記をし、新所在地においては」登記事項を登記しなければなりません。登記を怠った場合は、第976条第1号により100万円以下の過料の対象になります。
バーチャルオフィスを解約するときに発生する順番
この順番は動かせません。4社とも、登記の移転または閉鎖が済んでいることを解約承認の条件にしているためです。解約を決めてから実際に契約が切れるまで、1〜2か月を見込んでおく必要があります。
契約前に確認する順番
登記目的でバーチャルオフィスを選ぶときの確認順
許認可が要る事業なら、所管の窓口にその住所で申請できるかを先に確認する。各社とも業法の判断は代行しない
最安プランで登記できるとは限らない。GMOオフィスサポートの660円プランは登記不可と明記されている
Karigoは投資・融資など金融に係わる事業を禁止。業種が引っかからないかを規約本文で確かめる
登記すると官公庁からの書類が届く。個人名契約では金融関連の郵便を受け取れない会社がある
定款・株主総会議事録・株主名簿をどこに置き、閲覧請求にどう応じるかを決めておく
解約には移転登記と履歴事項全部証明書が要る。費用と期間を先に見ておく
登記できるプランと、できないプランがあります。登記の可否も含めて5社を一覧にしているので、候補を絞る前に確かめてください。
各社の条件は個別の記事にまとめています。GMOオフィスサポート、DMMバーチャルオフィス、レゾナンス、Karigo、ナレッジソサエティの順に、料金と契約条件を1項目ずつ確認しています。
よくある質問
バーチャルオフィスの住所で法人登記は違法ですか。違法ではありません。会社法は本店所在地に事務所の実体があることを要件にしていません。制限があるのはサービス提供会社の規約と、業種ごとの許認可の側です。
月額660円のプランでも登記できますか。会社によります。GMOオフィスサポートの転送なし660円プランは「法人登記・郵便物受取不可」と明記されています。DMMバーチャルオフィスのミニマムプラン660円は、料金ページとFAQで説明が食い違っているため、事前に照会が必要です。
古物商や人材派遣の許可は取れますか。Karigoは「実際のスペースが必要となる事業への届出には弊社提供の住所はご利用いただけません」として、特定派遣事業届出と古物商届出を例に挙げています。許認可が要る事業は、所管の窓口に確認してください。
定款はどこに置けばよいですか。会社法第31条第1項により、本店および支店に備え置く義務があります。本店がバーチャルオフィスの場合、閲覧請求への対応方法を提供会社と決めておく必要があります。Karigoは書類を預かり、立会いのもとで閲覧手続きを行う運用を公開しています。
本店を移したらすぐに登記が必要ですか。会社法第915条第1項により、変更が生じたときから2週間以内です。怠ると第976条第1号で100万円以下の過料の対象になります。
解約するとき、先に何をすればよいですか。本店移転または閉鎖の登記です。レゾナンス・Karigo・ナレッジソサエティは、移転または閉鎖後の履歴事項全部証明書の提出を解約の条件にしています。ウェブサイトや名刺からの住所削除も求められます。
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