経費精算システムの導入で最初に決めるのは、製品名でも料金プランでもありません。紙で受け取った領収書を電子データに置き換えるのか、そもそも紙を経由しない電子取引データを受け取るのか、その二つで満たすべき法令上の条件が別々に定められているためです。締め日の設計も、検索項目の持ち方も、この分岐から逆算して決まります。
①スキャナ保存と電子取引のどちらに乗るかを先に確定する、②入力期限を早期入力方式(おおむね7営業日)にするか業務処理サイクル方式(最長2か月+おおむね7営業日)にするかで社内の締め日を決める、③解約条件は「通知期限」ではなく「残期間の料金」と「退会後にデータを渡すかどうか」で読む。この3点を契約前に固定すれば、導入後の作り直しがほぼ起きません。
法令要件は国税庁の公表資料、契約条件は各社の利用規約を参照しています。個別の適用可否は税務署または顧問税理士へご確認ください。
紙をデータ化するのか、最初からデータで受け取るのか
電子帳簿保存法は、対象を三つに分けています。自分が一貫してコンピュータで作成する帳簿・書類の保存、紙で受け取った書類をスキャナで読み取る保存、そして電子取引の取引情報の保存です。経費精算で問題になるのはこのうち後ろの二つで、前者は会計ソフト側の話になります。
国税庁は、電子取引を「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」と定義し、EDI取引、インターネット等による取引、電子メールでの授受(添付ファイルを含む)、サイトを通じた授受を挙げています。ここで見落とされやすいのが、ECサイトで購入した商品の請求書や領収書、インターネットでしか確認できないクレジットカード明細やネットバンキング、水道光熱費の明細です。これらは受け取った時点で電子取引に該当するため、印刷して紙で保管する運用に切り替えることはできません。
一方、取引先から紙で受け取った契約書・納品書・請求書・領収書と、自分が手書きで作成して相手に渡した書類の写しは、スキャナ保存の対象です。ただし棚卸表、貸借対照表、損益計算書、計算・整理・決算に関して作成したその他の書類は対象から除かれています。
| 比較軸 | スキャナ保存(重要書類) | スキャナ保存(一般書類) | 電子取引データの保存 |
|---|---|---|---|
| 対象になる書類 | 契約書、納品書、請求書、領収書など資金や物の流れに直結・連動するもの | 見積書、注文書、検収書など資金や物の流れに直結・連動しないもの | メール、EDI、クラウド、ECサイト等で受領・交付した取引情報 |
| 入力期限 | おおむね7営業日以内、または業務処理サイクル(最長2か月)経過後おおむね7営業日以内 | 期限の制限なく入力できる(事務の手続を明らかにした書類の備付けが条件) | 期限の定めなし |
| 読み取り条件 | 解像度200dpi相当以上、赤・緑・青が各256階調以上の24ビットカラー | 白黒階調(グレースケール)での読み取りも可 | 読み取り自体が発生しない |
| 改ざん防止 | 入力期間内のタイムスタンプ付与、または入力期間内に保存したことを確認できる仕組み | 同左 | タイムスタンプ授受・付与、訂正削除履歴の残るシステム、事務処理規程のいずれか |
| 帳簿との相互関連性 | 必要 | 不要 | 原則として要件に含まれない |
| 検索要件 | 取引年月日その他の日付・取引金額・取引先での検索、範囲指定検索、組合せ検索 | 取引年月日・取引金額・取引先での検索、範囲指定検索、組合せ検索 | |
出典:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存【令和6年1月以降用】」および「電子取引データ保存要件チェックシート」
締め日は「7営業日」か「2か月+7営業日」かで決まる
スキャナ保存の入力期限には二つの方式があります。書類を作成または受領してからおおむね7営業日以内に読み取る早期入力方式と、社内で採用している業務処理サイクルの期間(最長2か月以内)を経過した後、おおむね7営業日以内に読み取る業務処理サイクル方式です。
後者を選べるのは、書類を作成または受領してからスキャナ保存するまでの各事務の処理規程を定めている場合に限られます。つまり「月末締め・翌月10日までに申請」という一般的な運用を法令上も成立させたいなら、規程の整備が前提条件になります。規程がないまま業務処理サイクル方式のつもりで運用すると、実態は早期入力方式の期限で判定されることになります。
業務処理サイクル方式を選び、処理規程に「受領から申請までの上限日数」と「担当部署」を書く。サイクルは最長2か月だが、2か月に設定すると期末をまたぐ月が出るため、実務では1か月に切るほうが締めやすい。
早期入力方式で足りる。おおむね7営業日以内に読み取れるので処理規程の整備を後回しにできるが、担当者が休暇に入る週の代替担当を決めておく。
スキャナ保存の要件をそもそも満たす必要がない。電子取引データの保存要件だけを設計し、スキャナ保存機能の有無で製品を絞り込まない。
一般書類(見積書、注文書、検収書など)については、入力期間の制限なく入力する運用も選べます。この場合は事務の手続(責任者、入力の順序や方法など)を明らかにした書類の備付けが必要です。重要書類と一般書類で期限の扱いが変わるため、社内マニュアルでは書類の区分表を先に置くと迷いが減ります。
検索は3項目。ただし免除の条件が二段構えになっている
電子取引データは、取引年月日、取引金額、取引先の3項目で検索できることが原則です。さらに、日付または金額について範囲を指定した検索と、2以上の任意の記録項目を組み合わせた検索も求められます。
この範囲指定検索と組合せ検索は、税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には不要になります。加えて、基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下である場合、または電子取引データを出力した書面を取引年月日および取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにしている場合は、3項目の検索そのものが免除され、ダウンロードの求めに応じられれば足ります。
| 自社の状況 | 3項目検索 | 範囲指定・組合せ検索 | 製品選定への影響 |
|---|---|---|---|
| 基準期間の売上高が5,000万円超で、書面整理も行っていない | 必要 | ダウンロードの求めに応じられるなら不要 | 検索項目の登録漏れを防ぐ入力必須設定があるかを見る |
| 基準期間の売上高が5,000万円以下 | 不要(ダウンロードの求めに応じられること) | 不要 | 検索機能より、データの一括出力のしやすさを優先して見る |
| 出力書面を取引年月日・取引先ごとに整理している | 不要(ダウンロードの求めに応じられること) | 不要 | 印刷・仕分けの人手が残るため、削減効果の見積もりを別に立てる |
製品の機能一覧に「検索要件対応」と書かれていても、自社がどの段に立っているかで必要な機能は変わります。売上高5,000万円以下の事業者が、範囲指定検索を理由に上位プランを選ぶ必要はありません。逆に、免除条件に該当していても、社内の探索効率のために3項目検索を使いたいという判断はあり得ます。法令上の必要と社内運用上の必要を分けて書き出すと、プラン選択の理由が残ります。
改ざん防止は4通り。システムを入れない選択肢が残っている
取引先側の対応に依存します。自社だけでは選べません。
総務大臣が認定する業務に係るタイムスタンプであることが条件です。付与の運用コストが発生します。
経費精算システムを導入する場合、通常はこの措置に乗ります。
専用システムを導入しない方法です。国税庁が規程のサンプルを公開しています。
④が残っていることは、導入判断の材料になります。件数が少ない事業者は、システムを導入せず規程で対応するほうが総額で安く済む場合があります。逆に、規程だけで運用すると、運用の実行を人が担保し続けることになります。件数が増えたときに規程の遵守を確認できる仕組みがないなら、③へ移る判断が必要です。「システムを入れないと違法」ではないという事実を押さえたうえで、どちらの運用コストが自社で低いかを比べてください。
ディスプレイ・プリンタの備付けについては、性能や設置台数は要件とされていません。スマートフォンのみで取引を行っていてパソコンやプリンタを保有していない場合でも、近隣の有料プリンタ等により速やかに出力できれば要件を満たすものと取り扱われます。
令和7年度改正で新設された自動連携の制度は、届出とセット
令和7年度税制改正で、請求書等のデジタルデータを自動で保存し、帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度が電子帳簿保存法に新設されました。一定の要件を満たして送受信・保存を行う場合、その電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為について重加算税の10%加重の適用対象から除外され、あわせて青色申告特別控除65万円を適用することができるとされています。適用時期は、重加算税の加重の適用除外が令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税、青色申告特別控除が令和9年分以後の所得税です。

この措置を受けるには、国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使用したうえで、新設された要件を満たして送受信・保存を行い、確認できるようにしておく必要があります。さらに、あらかじめ届出書の提出が必要です。基準に適合するシステムとは、デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイス(Invoice JP PINT または JP Self-Billing)、または預貯金口座における決済データのいずれかの電子取引データについて、新設された要件に従って保存できる機能を有するシステムを指します。
新設された要件は三つです。データの送受信と保存を訂正削除履歴が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムで行うこと(改ざん防止の確保)、電子取引データの金額を訂正削除したうえで電子帳簿に記録することができないこと、または訂正削除の事実を確認できるようにしておくこと(記帳の適正性確保)、電子取引データと電子帳簿との関連性を相互に確認できるようにしておくこと(電子帳簿との相互関連性確保)です。
製品側が「Peppol対応」と表示していても、それが国税庁長官の定める基準に適合するシステムとして新制度の要件を満たす保存機能まで含むかは別の話です。この制度を使う予定があるなら、対応状況と届出のタイミングを販売元へ書面で確認してください。予定がないなら、この項目を選定基準に入れる必要はありません。
試用期間に通すべきは、正常系ではなく戻す処理
申請から承認まで一度通ったことは、その製品が自社で回ることの証明になりません。手戻りが発生したときに、法令上の記録が壊れないかどうかが本番での分岐点になります。差戻し後に再申請したデータが、元の受領日ではなく再申請日で記録されると、入力期限の判定が変わります。取消・返金では、元の申請を削除するのか、取消の記録を残すのかで、訂正・削除の履歴要件の充足が変わります。
退職者の精算は、アカウントを停止すると過去の申請と証憑にアクセスできなくなる製品があります。法定保存期間のあいだ、退職者名義の記録を誰が閲覧できる状態にしておくかを試用中に確認してください。期をまたぐ支払は、申請月と支払月が異なるときに、どちらの日付で検索できるかを見ます。最後に、全期間のデータを一括出力し、別の環境で開けるか、項目定義が読み取れるかを確認します。この一括出力の可否が、次の解約の話に直結します。
解約条件は通知期限ではなく、残期間の料金とデータの帰属で読む
「いつまでに通知すれば解約できるか」だけを確認して契約すると、解約時に二つの問題が出ます。残期間の料金と、退会後のデータの扱いです。
マネーフォワード クラウドの利用規約では、サービス利用契約は有効期間終了日までに解約をしない限り、終了時に従前と同一内容で自動更新するとされています。そのうえで「途中解約した場合でも、当該契約の残期間に対応する利用料金は発生するものとし、当社は日割計算等による精算及び返金は行いません」と明記されています(第5条第5項)。契約者の退会についても、途中で退会した場合に残期間の料金が発生し、日割計算等による精算および返金を行わないことが重ねて定められています(第14条第3項)。
データの扱いはさらに踏み込んでいます。同規約第14条第7項は「本サービス退会後、当社は、契約者が当社に対し提供した契約者のデータ等その他一切の情報を引渡さないものとし、契約者はこれを異議なく承諾するものとします」と定めています。第14条第5項では、退会後も当社がユーザーアカウントおよび提供されたデータ等その他一切の情報を保有もしくは削除できるとされています。つまり、退会してから「あのデータを出してほしい」と依頼する前提の運用は成立しません。出力は契約が生きているあいだに済ませる必要があります。
なお同規約は稼働率についても定めており、1か月間の使用不能時間が3.6時間(1か月の時間の0.5%に相当する時間)を超えた場合に、契約者が申請でき、適正と認められれば翌月分の月額固定課金料金を減額するとしています(第19条第2項)。クーポン、プロダクト・キー、チケット購入による利用は減額の対象外です。自動的に減額されるのではなく契約者からの申請が起点になる点は、社内の運用手順に落としておく価値があります。
各社で条件は異なります。ここで挙げたのはマネーフォワード クラウドの規約であり、他社の条件をこの内容で推測しないでください。契約前に、①解約の通知期限、②残期間の料金の有無、③退会後にデータを引き渡す条項があるか、④出力できる形式と項目定義、の4点を規約と注文書の該当箇所で確認し、回答を書面で保存します。
よくある質問
スキャナ保存を始めるのに税務署への手続きは必要ですか
原則として必要ありません。任意のタイミングで始められます。ただし、スキャナ保存を始めた日より前に作成・受領した重要書類(過去分重要書類)をスキャナ保存する場合は、あらかじめ税務署に届出書を提出する必要があります。
電子取引データを印刷して紙で保存する運用は認められますか
原則的な保存要件としては認められません。ただし、保存できなかったことについて相当の理由があり、かつ税務調査等の際に電子取引データのダウンロードの求めと、出力書面の提示・提出の求めの両方に応じることができる場合には、猶予措置の適用を受けることができるとされています。相当の理由として、システム等の整備が間に合わない、人手不足、システム整備の資金不足などが例示されています。
読み取ったあとの紙は捨ててよいのですか
スキャナ保存のメリットとして、読み取った後の紙の書類を廃棄できるため、ファイリング作業や保存スペースが不要になることが挙げられています。ただし要件を満たした保存が前提です。廃棄の判断基準と実行者を社内規程に書き、要件を満たさない状態で先に紙を捨てる運用にしないでください。
解約を決めてから、いつまでにデータを出力すべきですか
契約が有効なあいだに完了させてください。退会後にデータを引き渡さない旨を規約で定めているサービスがあります。出力・検証・別環境での開封確認までを解約通知日より前に終える日程を組みます。
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